寝子島あやかし譚　鎌鼬｜リアクション

寝子島あやかし譚　鎌鼬

　飯綱雪はとあるあやかしの目撃情報があった場所へと来ていた。キョロキョロと辺りを見回す。警戒しつつ、目当てのあやかしを探す。
噂に聞いた三体の鎌鼬。病院に運ばれた被害者もいるらしい。
（他所の一門とはいえ、同種族が暴れているのは見過ごせないわね）
　はっとする。嫌な風が吹き始めた。
「きゃっ」
　小さな悲鳴。どうやら近くにいたカップルの女性が怪我をしたらしい。その前に風が渦巻いているのが見える。恐らく三人だ。
「ちょっとそこの三人。待ちなさい」
　雪は切られてしまった人達の前に立ち塞がった。まだ毒は塗られていない。
「早く逃げて」
　カップルは雪の言葉に頷いて、慌てて逃げて行った。
　姿を現した同種族達を睨む。
「あなたたち、鎌鼬の本懐を忘れているのでは？　三匹で組む仲間がいるくせに、道を違うだなんて」
　雪は拳を握りしめた。
「許せない」
　3匹はにやにやと雪を見てくる。
「おやおや、一人かい？　異端だね〜」
　第一の鎌鼬が嫌味ったらしく言ってくる。煽っているのは明白だ。
「異端はあなた達でしょう。今のあなた達は本来の鎌鼬の姿ではないわ」
「けっけっ。さては行き遅れだなぁ〜？　半人前のくせによおっ」
　これでもかと煽られるが、雪は小さく深呼吸した。
「おら、退けよおっ」
「あなたを倒して、『転ばせて』やる！！」
　
（私もかまいたちの女だと、嫁になる女としてふさわしいと、一族に認められるでしょう！！）

　雪が身構えると同時に、第一のかまいたち、弟が巨漢を揺らして風をまとった。
　雪は一度後ろに飛び退く。
　腕で顔を覆うと、巨漢が渦巻く風になったのが見えた。その瞬間、四方に小さな竜巻が飛び散った。
「ぎゃっ！？　やめろ、弟よ！」
　第ニ、三の鎌鼬も突風を受けていた。どうやら、制御出来ないよう。
「これでは、一人の方がましね」
　雪は向かってくる旋風に突風をぶつける。威力が同じなのか相殺されるのが分かった。
　そして、
（これでっ）
　兄、妹に向かっていく旋風に雪自身の突風をプラスすると、威力が強まった。
「ぎゃあああっ」
　兄妹が飛んでいくのを見た弟が慌てた様子でそちらの方向へ視線を向ける。それでも収まらない旋風、まったく制御出来ないらしい。
「くそっ、大丈夫か！？」
　弟は兄妹を追って、こちらへ背を向ける。
「待って！」
　逃げられるわけにはいかない。雪は駆け出した。

　

　椎井莉鳥はほんの少し眠気を感じて、ぼんやりとする街灯を見上げた。
　風が強く、時々突風が吹いている。
　タンクトップやホットパンツから伸びるすらりとした手足が夜風に晒されると、さっと鳥肌が立った。
「ん……」
　ふと、妙な気配に気づいた。蒸し暑い空気の中に混じる殺意。
　とっさに大きく横へ飛ぶと、今まで莉鳥がいた場所に鋭い風の刃が放たれ、アスファルトの地面が抉られてしまった。
　片膝をついたまま、気配がする方を見ると。
「おやおや、転んでもらわないと話にならないな。次は殺してしまうかもしれないぞ」
　にやにやと不気味な笑みを浮かべる肥満男。それは鎌鼬と呼ばれる存在だった。
「！」
　はっとして横を見ると、筋肉の巨漢がひゅっと風の刃を放ってきた。巨大な鎌から繰り出される。先程より威力が弱そうだが、細かい刃がいくつも襲ってくる感覚だ。時にそれらは合体し、飛び道具の大きな鎌となる。
　莉鳥は駆け出した。
（どっちにしろ殺す気ね）
　確実に攻撃を莉鳥に当てようとしている。第二の鎌はそういうものなのだ。
　電柱や街灯の陰を利用しながら、ジグザクに逃げる。
　足首にピリッとした痛みが走った。
「んっ」
　見ると、小さな傷が出来ている。
（不覚だわ）
　と、前方に人影が見えた。

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