【星幽塔】第十一階層　神獣のおもてなし｜リアクション

【星幽塔】第十一階層　神獣のおもてなし

　桜が着替えて向かったのは、指定された貸切大浴場だった。
　家族連れらしい。
「失礼します」
　魔水の光。競泳水着を着用した桜が脱衣所の先の曇りガラス戸を開けると、
（うあ）
　リュウセイグマのファミリーだった。
　父クマ母クマはのんびり湯に浸かっているのだが、子供達が洗い場で追いかけっこをしている。
「こーら、危ないから、お母さん達とお風呂入ろうねー」
　桜は子グマ２匹を片腕づつで持ち上げた。
「キュイっ、キュッ」
　足をバタバタさせて何かを訴えるような声を上げているが、親クマを見ると、助かりましたとでも言いたげに頷いている。
「キュッ」
「あっ」
　桜の腕から脱走した子グマ一人が、湯船の縁に立った。それから、思いっきりジャンプ。
「だ、だめー！！」
　桜はとっさに湯船へと飛び込んで、落ちてきた子グマをキャッチ。
　溺れそうになりながらも、お湯から顔を出す。
「すみません。お子様が……怪我をされそうだったので」
　子クマの安全を図るためとはいえ、広範囲に湯飛沫が舞ってしまった。幸い、父クマ達は気にしている様子もなく、面倒を見てもらえて嬉しいくらいまで思っていそうだ。　
　と、腕の中でバタバタと暴れる子グマ達。まったく反省してないようだ。
「そうだ」
　この温泉宿の女将は、寝子島を訪れた際に寝子温泉で受けた歓待にいたく感激してこの宿屋を始めるきっかけになったとか。
（きっと、あれがあるわよね）
　バタバタと暴れている子クマ達を見、
「今から、遊んであげるから暴れないの」
　子クマを連れて宿の玄関にいた女将に聞けば、やはり用意されているらしい。
　宿の男性従業員に言って、脱衣場に運んでもらい、設置完了。
史上初の、脱衣所卓球開始である。
　さすがというべきか、子供でも神獣、知能はかなり高いらしく卓球のやり方はすぐに覚えた。
「一セット目、行くわよ」
子クマ二匹対桜である。
「えいっ！」
　桜からボールが行くと、子クマは手首を捻って、撫でるように打ち返してきたのだ。
（これ、巻き込みサーブ！？）
　桜のラケットに当たったボールはあらぬ方向へ飛んで行ってしまった。子クマ達はハイタッチなどをして余裕だ。
　三セット目。次の一点で桜の負けというところまで来た時である。
（またこのサーブ）
　桜が構えると、誰かが隣に並んだ。
「え？」
　見ると、風呂を上がった親クマだった。慣れたラケットの持ち方。飛んで来た実の子供のボールを力任せに打ち返す。
　風を切る音、ぎゅんというラケットを振る音が同時に聞こえ、真ん中の網を破って、子クマのすぐ横を過ぎて行った。
白い体毛がひらひらと床へ落ちる。子クマの表情が変わった。親クマも指をくいくいと動かし、煽りまくっている。
（最強のライバルとの対決みたいね……）
　桜は大人しく親クマに場所を譲り、ハイレベルなラリーの末、
「それじゃ、お風呂に入るわよー？」
遊び疲れてぐったりする子クマを連れていざ温泉へ。湯船で温まってくるとまた元気になり始めたか、押さえられるレベルだった。
（神獣ってなんなのかしら）
　疑問が残る。

　おもてなしが終わると、桜は貸し切りの露天風呂へ案内された。誰もいない雪原が見える。
「はあ……」
　熱めのお湯に肩まで浸かる。じんわりと浸透する熱、疲れが溶けて消えて行くようだ。雪原が少し眩しく感じた。

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あとがき

担当マスター：高城ヒト
ファンレターはマスターページから！

温泉宿での神獣との触れ合い、いかがだったでしょうか？　それぞれ個性があって、お相手をするのが大変でしたよね！
しかし、いつもとは違うおもてなしに神獣達も喜んでいたかと思います。
モンスターとのバトルは宿屋での一興になっていたのはここだけの話です。楽しく書かせて頂きました。

ご参加ありがとうございました！

またお待ちしております。

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