俳句、やってみませんか？｜リアクション

俳句、やってみませんか？

●俳句の難しさ

　学校の昼休み。月原想花はスマホを開いてSNSのTLを眺めていた。
　季節のスイーツ、流行のバッグなどの情報が流れてくるなかに、ふと気になるものがあった。

「……俳句？」

　『皆さん、俳句楽しんでますか？』というフレーズで、気軽に参加できるタイプのイベントのようだ。

（今度の日曜日か……）

　ちょっと興味が沸いてきた。
　彼女は空想家で、小説投稿サイトにファンタジー小説や詩を投稿したりしている。文字でなにかを生み出すという点にそれらと共通したものを感じた。
　また日曜日に蒸し暑い猫鳴館で過ごすのは地獄だという事情もある。それに、最優秀賞もしくは優秀賞に選ばれると商品券がもらえるというのも参加動機には十分だった。

　イベント当日。
　想花は頭には野球帽、白いパーカー、そして先日の『Tシャツつかみ取り大会』で買った青紫のタンクトップ。それからスキニーにスニーカーという軽装にリュックを背負って猫鳴館を出た。
　受付会場へ向かうと、偶然早川珪先生と出くわした。図書館にいることの多い彼女にとって、顔を合わせる機会の多い先生だ。珪先生は最近たまたま俳句集を読んだのをきっかけに参加を決めたらしい。
　２人とも会場で一筆箋と筆記具を受け取ると、なんとなくという感じで一緒に回ることになった。寝子島内ならどこをテーマにして書いてもいいということで、旧市街、シーサイドタウン、星ヶ丘、そして最後に九夜山にやってきた。

（さ、さすがに疲れが……）

　寝子島全体を網羅するように歩き回ったので、九夜山に着いた頃にはもうヘロヘロだった。それでもケーブルカーを乗り継いで、展望台に辿り着いた。今まで自分の歩いて来た寝子島の景色が一望できる。天気もよく、遠くまではっきりと見えた。

「ここから見える景色は最高だな」

　吹き抜ける風が火照った体を心地よく撫でる。ふと見上げると、一羽の鳥が青い空を悠然と飛んでいるのが目に映った。

（あ、なんか浮かびそう）

　一筆箋を構えると、思いつくままに言葉を綴る。

　【青き空　風に揺蕩う　夏の鳥】

　想花は書いてみた俳句をじっくりと眺める。

（……つい思い付きで書いたけど、これって駄作な気が……。先生はどんな句を作ったんだろう？）

　視線を珪先生のほうに向けると、彼も一句書き終えたところだった。

　【風抜ける　万緑の九夜　空の青】

　想花が見ていることに気づいた珪先生が声を掛ける。

「なかなか難しいね」
「そうですね……」

　珪先生の句を見て想花は、さらに自信を無くしていた。とはいえ、せっかく浮かんだ一句だし、提出しないというのも違う気がする。彼女は珪先生と一緒に受付会場に向かい、自信がないまま提出した。想花の句と珪先生の句は他の参加者のと一緒に会場のスペースに張り出された。
　残念ながら賞はもらえなかったけれど、あの時展望台で見た光景が一筆箋に収まっているような気がした。

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