【プール開き】六月快晴初およぎ日和｜リアクション

【プール開き】六月快晴初およぎ日和

●ここはどこ、あやかしプール！？（１）

　６月の日差しの下、女子バスケ部キャプテンの羽生碧南は三度目のプール開きを普通に楽しんでいた。

「今年が最後のプール開きになるわね。……不測の事態で留年しなければだけど」

　健康的でセクシーなオフホワイトのビキニはお気に入り。左太腿に巻いたガーターリングは、水着とお揃いで白のフェミニンさの中に黒革紐を組み合わせたデザインになっている。碧南は水を楽しむ程度に軽く泳いだ後、濡れた髪を掻き上げてプールから上がった。そのままバカンスエリアで飲み物を取り、プールを囲む金網に背を預けて喉を潤す。
　すると、バスケ部の二人の後輩、浅見柚乃と霧生愛が声を掛けてきた。
「先輩、絵になりますね」
「スタイル良すぎです先輩」
　碧南は180センチという高身長ながら、どちらかというと可愛らしい顔立ちをしている。そのアンバランスさが蒼空とプールという背景の前では魅力的に見えて目立っていたらしい。
　もっとも愛のほうは、学校の授業でビキニを着るのはいかがなものか……と言わんばかりに、碧南のビキニにすこし眉を顰めている。
「もしかして、破廉恥、とか思ってる？」
「いや、まあ……思ってなくはないですね」
　そういう愛は競泳水着。
　柚乃のほうは指定水着ではないが、大人しめのセパレートのフリル付きの水着だ。
　ふうむ、と思ったが、お気に入りの水着を着たかったのだ。
「ここじゃ初日だけ自由だし」
　と女バスキャプテンの貫禄で受け流したところまでは良かったが、その後タイムアタックをビキニで泳ぐ羽目になり、それはさすがに赤面だった。その割には悪くない数字は出したので良かったとは思うが……。
　しかし問題はその後に起きた。

◇

　碧南の不遇に触れる前に楡宮遠海の話をしよう。
　去年はアウトレットで買った水着で臨んだ遠海は、今年も同じ水着を着るつもりだった。それは、胸元が三段のフリルになっているホルダータイプの水着で、いっぱいのフリルでちっぱいを誤魔化せるので重宝していた。それなのに、どこにしまい込んだか忘れてしまって見つからず、今年は泣く泣く寝子高のスクール水着を着ることになった。

（不本意よ、何故って……ああ、脳内ですら言葉にするのは辛いわ）

　本人が言葉にしないので、地の文で説明しよう。
　紺色の、誰が来ても似合いも不似合いもしないようなのっぺりとしたワンピース水着は、彼女のコンプレックスであるちっぱいを強調してしまっているのである。
　というわけで――というわけでもないが、遠海はヤケになった。
　そんな彼女を、ガッツリコースが待っていた。
　乳は泳ぐのに必要じゃないよ。
　ガッツリコースはそう言ってくれている。気がした。幻聴かもしれないが。
　水泳自体はそこそこ得意で、一応中級レベルである。
　遠海はひたすらストイックに四泳法をみっちり泳いでいた、のだが……。

「ふう、疲れた。ちょっと休憩」
　プールサイドの梯子を上がりかけて、ぬるっと太腿から臀部のほうへと撫で上げられた感触。
「え？」
　今、お尻触られた？　一拍おいて気づき、悲鳴を上げる。
「きゃああああ！　一体誰よ！」
　振り返る。水中に誰かいるような影。けれど水面が波打っていてよく見えない。
　目を凝らしているとその影はするすると動いて別の女子の方へ。
「ひゃっ、だ、誰よ、お尻を触ったのは！」
　叫んだのは白いビキニの碧南だ。
　あいつ、次々と女子のお尻を狙ってる！？
「こんなバカなことをするエロ男子は、絶対に許さぬ！」
　頭に来た遠海は犯人を捕らえようとプールに潜った。
　カッとまなじりを決して水中へ潜って目を凝らすと、そこには……河童の少年がいた。

「！？！？」

　彼女たちはいつの間にか、あやかしプールに迷い込んでしまっていたのである。
「何故河童？」
　その瞬間こそ目を白黒させた遠海であったが、お尻を狙われた怒りはすぐに蘇ってきた。
「このエロガキもとい、エロ河童、絶対に捕まえてやるんだから！」
　泳いで追いかけようとするが、いかんせん相手は河童。さすがに泳ぐのは向こうの方が一日の長がある。
　結局息が上がって、水面から顔を出す。
　するとそこには鷲尾先生らしき女性がいた……。
「え、先生……っぽいけど、頭が河童……？」