蝉羽月に衣替え｜リアクション

蝉羽月に衣替え

●夏服選び

　御巫時子は夏服を選ぶため、シーサイドタウンのアウトレットにやってきた。さっそく服を買うために店に入ったが、手にとっては元に戻すのを繰り返している。

（やっぱり悩みますね）

　無意識に手に取る服は、どうしても既に持っている服に似たものを選びがちになる。だから良さそうな服を見つけても、いまだに１枚も買えていない。

（ここで特に買えなければ、キャットロードにも行きましょうか）　

　そう考えていたら、五十嵐尚輝先生が来ているのが見えた。時子は驚きつつも、軽く髪を整えてから先生に声を掛ける。

「尚輝先生、おはようございます」
「おや御巫さん、おはようございます」
「先生も服探しですか？」
「そうなんだ……」

　尚輝先生が少し暗い表情なので事情を聞いてみると、衣替えをしたら去年の服で着られるものが予想より少なかったらしい。時子の悩みとは少し違うが、服で悩んでいるという点では同じ。それに時子の悩みは他の人がいたほうがいい。

「もしよろしければ先生に服を選んでもらいたいです」
「僕が？　服は詳しくないけど、それでもよければ」
「ありがとうございます」

　それから２人で店内を巡る。先生は色々な服を眺めながら、時子に尋ねる。

「御巫さんはどういう服が好きなんですか？」
「シンプルなデザインの服を着ることが多いですね」
「なるほど……」

　先生は考えるように俯くと、再び視線を上げる。そして視界に入った服に手を伸ばす。

「これはどうでしょうか？」

　彼が選んだのは袖がリボンデザインになっている、シンプルなカットソー。色はラベンダーグレーで、単体で着ても、他と合わせてもよさそうだ。

「リボンが可愛いデザインですね」

　時子もそれを手に取って眺める。試しに体に合わせてみると、なかなか良い感じだ。他にもドット柄のワンピースなどを一緒に見たり、それらを試着して感想を言い合う。

（先生とお出かけすると楽しいですね）

　服について彼と色々話すなかで、時子はそう感じる。

（率直な意見を言ってもらえますし、反応を見ると喋らなくても分かる時もありますし）

　考え込む先生を見ながら、彼女は微笑んだ。そして買う服を決めたらレジへ向かう。会計を済ませて店を出ると、時子は尚輝先生のほうを向く。

「今日はありがとうございました」
「いえいえ、僕も楽しかったです」

　時子は選んでもらった服を大切に抱きしめる。彼女は先生と出かけるときに、これを着ていこうと思った。

このページにイラストを設定する