蝉羽月に衣替え｜リアクション

蝉羽月に衣替え

●私服と水着の整理

　真境名アリサは旧市街のアパートで私服の整理をしていた。そろそろ蒸し暑くなってきたので、夏物への衣替えと、ついでに今後着る服を選ぶ。

「これは残して……こっちのはもういいかな」

　もう着ることもなさそうな服については、状態を見てネットオークションに出すか、近所の古着屋に売って数を減らす予定だ。

「売ったところで金銭的利益はそれほど大したものではないだろうけど、まあ小遣いくらいにはなるかもね」

　そうして私服の確認を終えると、今度は水着の確認に移る。彼女は木天蓼市内の水着ガールズバー『ジュエル』の副店長なので、これらはいわば商売道具。それを踏まえた上で今後着るかどうかを考えて整理する。

「……ああ、これって夏に着るものだったんだなあ」

　ふと、そんな言葉が漏れる。仕事で年がら年中着ているので、水着に対してちっとも季節感がない。初夏になってようやくそのことを思い出すほどに『水着は夏に着るもの』という感覚がない。水着も私服と同じように、状態のいいものは十分に洗浄したうえで売りに出す。でも処分候補のなかには、店の女の子が欲しがっていたものも何着か含まれている。

「これは売りに出す前にリストを作って『アリサ姉さんの特選水着セット』とか称して希望者に渡そう」

　そんなことを考えながら選別作業は続く。仕事着なので、私服より厳しめに見ている気がする。だからだろうか、私服の時よりも完了までに時間がかかってしまった。しかしこれで服の確認は終わった。アリサは大きく伸びをする。
　改めて服全体を見てみると、今後着る服も処分する服もけっこうな量がある。その量にアリサ自身も驚いている。

「去年もそうだけど、１年でこんなに服って溜まるものかな」

　着道楽というわけではないのだが、目について気に入ったらつい買ってしまう。とはいえ水着については商売道具なので、ある程度は仕方ないかなと思う。

「さすがに少し買い控えて着まわそうかな……。さて、ひと段落したし、ちょっと出かけよ」

　気晴らしを兼ねて外に出ると、蒸し暑さが押し寄せる。風がそこそこ吹いているのが救いか。すると１枚のチラシが目に入る。どうやらアウトレットで夏物のセールをやっているようだ。しかもかなりの激安である。

「え、嘘、これこんなに安いの？」

　買い控えて着まわそうかな、と言っていた自分はどこかへ行ってしまった。せっかく服を整理したのに、結局アウトレットでいくつも服を買った。

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