蝉羽月に衣替え｜リアクション

蝉羽月に衣替え

●２人で着る服

　６月１日、青山絢は１８歳になった。
　当日は従妹の水谷真優理が東京へ研修に行っていたため、友達に誕生日を祝ってもらって過ごした。その日遅くに帰宅した真優理から、プレゼントとして財布を受け取った。このとき、絢はそれでプレゼントは終わりだと思っていたのだが……。
　
　それから２週間ほど経った頃の日曜日。絢と真優理は一緒に買い物へやって来た。日用品などの買い物を済ませて真優理が支払いをする。ただその間、絢は手持無沙汰で適当に近くを歩いていると、ふとある店が視界に入った。
　『KIDDY,THE MOON LUCENT LIGHT』という、ロリィタファッションを取り扱っているところだ。

（寝子島にも進出してたんだ）

　なんとなくという感じで店内に入ってみると、見渡す限りロリィタ服で溢れかえっていた。色やデザインも様々で、さすが専門店といったラインナップだった。所在無げにキョロキョロしていると、店員に声を掛けられる。ただでさえ戸惑っているところに追い打ちを掛けられたような感覚に震える。店員に悪気はないし、絢自身もそれはわかっているのだが、どうしてもキョドってしまう。
　不慣れな様子を察したのか、店員はこう続けた。

「こういった服が初めてでしたら、これは如何でしょうか？」

　そう言って、店のなかでは基本と呼べそうなタイプの服を持ってきた。言われるままに試着してみると、結構似合っていて驚く。さらに流れるように何着も試着してみる。フリルが多く使われたものや、色味を重視したものなど、本当に様々だ。そうしていると、ふと店員の手が止まった。

「あの、もしかして『Cutie Kitty』のモデルさんですか？」
「え、あ、はい」
「わー！　やっぱり！」

　店員のテンションが一層あがる。どうやら読者の１人だったようだ。服のことだけでなく、読者モデルのことなどで話は盛り上がる。一方その頃、支払いを済ませた真優理は絢の姿が見えなくなったことに気づいた。

「どこに行ったのかしら？」

　心配になって辺りを見回すと、『KIDDY,THE MOON LUCENT LIGHT』の店舗があった。

（もしかすると、ここへ入ったのかな？）

　中に入ってみると、そこには甘ロリな服に身を包んだ絢がいた。
　ピンク色の生地をベースに、赤い果実を彩りに添えて、ヘッドドレスにはその２つを調和する色合いの花をあしらっている。また袖回りなどに結ばれたリボンもデザイン性を高めている。その姿は真優理からすれば、普段の百倍増しの可憐さである。
　あまりの可憐さにしばらくボーッと見つめていたが、ハッと我に返る。

（危ない……尊みが深すぎてキュン死するところだったわ……）

　その様子を見て絢がドン引きしているが、そこは気にしないことにした。そして真優理の次の行動は早かった。

「その服、買いましょう！」

　絢は急展開に言葉が出てこない。しかも今着ているものは結構な値段である。

「真優理さん、この服高すぎるよ……」
「大丈夫、伊達に私、高給取りしてないから！」
「でも……」
「へーきへーき！　だって今度ボーナス出るし！」

　自信満々に答える真優理。もう彼女の心は決まっているのだろう。絢はやや諦めた表情を浮かべた。

「でしたら、こちらは如何でしょうか？」

　店員は真優理に対して、絢が着ている服とお揃いのデザインを勧める。真優理はこれも迷わず購入した。その後、これ以外にも何着か購入した。自分用に買ったのはお揃いのものだけで、他は絢にプレゼントした。

「ありがとうございました」

　店員に見送られて、店を後にした２人。帰りは２人揃ってロリィタドレスで帰宅することにした。道行く人の視線を集めているが、真優理は気にしない。一方、絢は恥ずかしそうに俯きがちに歩いている。服は同系統なのに、まるで反応が対照的な２人だった。

このページにイラストを設定する