蝉羽月に衣替え｜リアクション

蝉羽月に衣替え

●夏に向けた準備

　春から夏に変わり、外を見れば、木々の緑が映える景色が広がっている。そして、それは衣替えの時期でもある。
　
「そろそろ新しい服も欲しいかなー」

　篠原翠響はクローゼットや衣類タンスを眺めながら呟いた。既に制服は夏服に替えたし、私服も衣替えが完了している。ただ、服を整理するために色々見ていると、そんな気持ちが沸いてきた。

「よし、とりあえず見に行こう」

　どうしようかと悩むよりも、まずは買いに行ってから考えよう。そんな軽い感覚でアウトレットへとやってきた。どの店舗も春物はほとんど見当たらず、夏に向けた商品を展開している。こういう光景も夏の風物詩と言えるかもしれない。
　翠響はまずはajidas（アジダス）へ向かい、そこで新体操の練習用にウェアやタオル、他に制汗剤などを購入した。

（夏の練習はとにかく暑くて辛いから……少しでも快適なものにしないとね）

　新体操はかなり体をつかうので、こういった対策は必須。それからいくつか店を回って、しばらくはだらだらとウインドウショッピングを楽しむ。

（夏だけあって水着や浴衣も並んでるなぁ）

　水着はワンピースやビキニ、パレオなど、様々な種類が揃っている。浴衣も単色でシンプルにまとめたものから、扇子などのデザインを織り込んだものなど様々。そのなかに夏の花々を綺麗にまとめた浴衣があって、それをしばらく眺めていた。そうしていると、店員に声を掛けられる。

「そちら、気に入っていただけましたか？」
「はい、とても綺麗だと思います」
「私も好きなんですよ、この浴衣。もしよければ試着されますか？」

　そう勧められて、軽く袖を通してみる。着心地もよく、花の美しさを着ている自分自身も感じられた。

（これ、いいかも）

　いくらくらいなんだろうと思って値札を見ると、手持ちのお金ではどう足掻いても足りないことに気づく。

「こちら、いかがでしょうか？」
「あー……えっと、すみません、また今度で」
「そうですか、また是非お越しください。お待ちしております」

　残念な気持ちを抱えたまま、店を去った。その後もいくつかの店を巡って夕方に自宅へ帰るまでに買えたのは、とても可愛らしいデザインの薄い水色のサマーワンピース。これにミュールをつけたら、ギリギリなんとか手持ちの分で足りた。

（これを着る機会があるかどうかはわからないけど……）

　しかしなんとなく気分がアガる気がしたので、それはそれでいいかと満足して家路に着いた。