天国の扉｜リアクション

天国の扉

　白石龍樹は地面から足が離れたのに気づき、宙でバランスを崩した。
「うわっ！？」
　体が浮力に包まれた上に空へ吸い込まれていく。
「どうなってるんだ。重力が変な感じで」
　ふわふわと浮かびながら、あっという間に雲の間に上がってきていた。
「はぁ〜なんか気持ち良いな」
　なんとなく横になって、頭の後ろで手を組んだ時。
　ふと視界にグレーの物体が映った。
「ん？」
　視線を向けると、
「！？」
　光るグレーの体、つり上がった大きな目のひょろっとした人形の生き物が立っていた。
　それはもはや、よく見る宇宙人の姿そのものだった。隣にはタコのような生き物が立っている。
（宇宙人！？）
　赤いタコ型のそれはどう見ても火星人だ。
「すげー……」
　こちらを見ている二人の宇宙人。龍樹は声をかけてみることにした。

「うーむ」
　旅鴉月詠は空に向かって街灯にぶら下がりながら、小さく唸った。
　なにかに掴まらないと体の重さがなくなったように、ふわふわ浮かんでしまう。斬新な景色だが、両手が塞がっているので絵がかける状態ではない。
「仕方ない」
　月詠は街灯から手を話した。
　思ったより、落ちていくスピードは遅かった。
（ふーむ）
　行きたい方向へ向けて、平泳ぎをしてみる。
「これは」
　水の中のように、行き来出来るようだ。
　浮力が強すぎてとても地面に足はつけないので、このまま漂ってみることにした。
　体を横に倒して、見上げると、快晴だった。今なら真っ青な空の向こうへ行くことが出来そうだ。
「あれは」
　遠くに魚の形をした何かが見えたような気がした。雲の間に入って行ってしまったがこの距離でもはっきり見えたので、近づくと巨大な生物なのかもしれない。
「クジラのように見えたが」
　と、体が何かに触れた。
「ん？」
　体の下を見ると、つぶらな瞳がこちらを見上げていた。
「……」
　体は月詠と同じくらい。背びれと尾びれ、曲線を描く体はブルーの混じった黒。
「イル、カ？」
　イルカはキュッと短く鳴いて、月詠の体を押上げた。
「お、おい」
　問答無用でイルカに跨がる形になる。そして、一気に舞い上がった。
「！」
　空に落ちて行く。

　三宅葉月は重力が緩くなった空をふわふわと漂っていた。
「夢みたいね」
　凄まじい浮力を感じる。と、風の流れに身を任せていると、雲の間から黒白滴の姿を発見した。
「あ～、せんぱーい」
　あちらも気づいたように手を振りながら飛んでくる。
「なんか大変なことになってますね～」
「ええ。あなたも空へ投げ出されてしまったのね」
　滴は空を見上げた。
「この空の先に天国があるんですかね～？」
「何？　突然」
「いや～、ずっと考えてたんですよ。生き物に死が訪れた時、もしかするとここを通るのかなって」
「……確かに不思議な光景よね」
「ですよね～？」
　と、そばにあった大きな雲から、何かが飛び出して来た。
「！」
　驚いて目で追うと、それはイルカのようだった。
　誰かが乗っていることに気づく。
「あれは」
「おお、三宅氏」
　月詠だった。彼女は緩く手を振ると、イルカと共に空を駆けて行った。
　一瞬の出来事。そうこうしていると、
「先輩、あれ」
　イルカの疾走の影響か、雲が揺れ、その間から真っ白な猫が飛ばされてきた。
「にゃあ～」
　浮力のせいかくるくると回転し、明後日の方へ。
「あ、危ないっ」
　葉月が手を伸ばし、猫をキャッチ。
「先輩、危ないっ」
　風のせいで舞い上がりそうになった葉月を押さえたのは滴でだった。

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