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- 学年：職業
- 00月00日生 00歳
- AAA000000
水中光芒
幸せな時の過ぎるのは早い。
気づけは閉館の時間が近くなっていた。
客の姿もまばらになり、人気の展示でも見やすくなっている。
「帰る前に見逃しねえか？」
アヤトが尋ねるとラッセルは「ペンギンの泳ぐ姿やウミガメってみれねーのかな！」と言った。
「空飛んでるショットみてーなやつ撮りてぇんだ」
それならば、とパンフレットを広げる。
あった。ペンギン水槽。
パンフレットの中では『ペンギンは海の中で飛んでいる』とキャッチコピーが付いており、ペンギンが鳥の仲間であることや水中に餌を求めて進化したことなどが説明されている。
先ほどはお散歩イベントのために留守だったペンギンたちだが、今なら水槽に戻ってきているに違いない。
行こう、と連れ立って一通り見て回った道を戻る。
その水槽は、ペンギンが泳いでいる様子をよく観察できるように、水面が頭の上の位置にあった。
閉館間際ゆえか、アヤトとラッセルの他に人はいない。
群れて水面近くを泳ぐペンギンたちは、まるで宙を飛んでいるかのようにみえる。
「おおー。すごい。本当に鳥なんだなあ」
ラッセルは興奮してシャッターを切る。
カナリアとなって空を飛ぶときの爽快感がにわかに蘇ってきた。
きっとペンギンたちは、陸をお散歩しているときより、こうして水中を泳いでいるときの方が大いなる自由を感じているのではないだろうか。
その感動を分かち合いたくて、背後にいたアヤトのほうを振り返って感嘆の溜息。
アヤトは微笑んでいる。
その目線に照れてしまい、慌てて水槽に意識を戻す。
「……桜井」
耳元で囁くように呼ばれた。
彼のシトラスの香りが心地良く鼻腔を擽る。
近すぎじゃね、と軽く振り返ったそのとき、一瞬触れるだけのキスをされた。
「……なッ……！」
ぱくぱく、酸素不足の魚みたいに口を動かしたが、言葉にならずそのまま絶句する。
素早くあたりを確認する。
先ほどと同じ。人はおらず、一瞬の遊戯をみていたのはペンギンたちだけだ。
「……続きは帰ったらたっぷりな」
余裕綽々言ってのけるアヤトに、真っ赤になった頬と尖らせた口唇で抗議する。
「このやろ、黙らせるぞ」
だめだ、怒った表情を維持できない。赤面したまま口元から崩れるみたいに笑ってしまう。
そんなラッセルの髪をくしゃくしゃっとしてアヤトもまた笑っている。
「俺を煽るなよー止まらなくなるからなー」
「煽ってねえし」
ただ、そう。この時間が終わりかけているのが少し寂しいだけだ。
でもその寂しさは今は誤魔化す。
「煽ってんの、そっちだからな。止まらなくなるのもお互い様だし」
ぼそっと呟き、本当の気持ちをそっと飲み込む。
……もっといれたらいいのに。ずっと、いつもどこででも。
（いや。わがままは言えねー。
離れた分、今、いてくれることだけでも感謝しねーと）
閉館の音楽が流れはじめた。
アヤトとラッセルが水族館を出ると、あたりは夕暮れを迎えていた。
西の方の空は太陽の沈みゆくのに合わせて、さっきのラッセルの頬みたいに真っ赤に染まっている。
東の方の空はもう群青色で、たなびく雲の影の部分が墨色に染まりつつあった。
「ああ、ほんっと楽しかった！ 付き合ってくれてありがとな」
「こちらこそ。桜井と一緒に来れて良かった」
そういって太陽の方を眺めたアヤトの横顔は穏やかで、綺麗だった。
気さくで、潔癖症で、兄貴肌で料理が得意で、けれど肝心なことは殆ど口にしてくれない。
どうして気が合っちゃったんだろうな、と今更ながらにラッセルは不思議に思う。
（んー……、割と似たところもあるか）
違う所もあるけれど……例えば自分の方が照れ屋な所とか……そういうところも尊重してくれていると感じる。だからかもしれない。彼の隣が心地いいのは。
「桜井」
「んー」
「俺、好きだよ、桜井のこと。いてくれてありがとうな」
そう言ったアヤトの笑顔は今日一番のもので。
（笑顔みれてよかった）
こちらこそ、いてくれてありがとう。
涙が出そうなくらい嬉しい。
ラッセルはその気持ちを笑顔にかえて、彼へと微笑み返したのだった。
＜了＞
気づけは閉館の時間が近くなっていた。
客の姿もまばらになり、人気の展示でも見やすくなっている。
「帰る前に見逃しねえか？」
アヤトが尋ねるとラッセルは「ペンギンの泳ぐ姿やウミガメってみれねーのかな！」と言った。
「空飛んでるショットみてーなやつ撮りてぇんだ」
それならば、とパンフレットを広げる。
あった。ペンギン水槽。
パンフレットの中では『ペンギンは海の中で飛んでいる』とキャッチコピーが付いており、ペンギンが鳥の仲間であることや水中に餌を求めて進化したことなどが説明されている。
先ほどはお散歩イベントのために留守だったペンギンたちだが、今なら水槽に戻ってきているに違いない。
行こう、と連れ立って一通り見て回った道を戻る。
その水槽は、ペンギンが泳いでいる様子をよく観察できるように、水面が頭の上の位置にあった。
閉館間際ゆえか、アヤトとラッセルの他に人はいない。
群れて水面近くを泳ぐペンギンたちは、まるで宙を飛んでいるかのようにみえる。
「おおー。すごい。本当に鳥なんだなあ」
ラッセルは興奮してシャッターを切る。
カナリアとなって空を飛ぶときの爽快感がにわかに蘇ってきた。
きっとペンギンたちは、陸をお散歩しているときより、こうして水中を泳いでいるときの方が大いなる自由を感じているのではないだろうか。
その感動を分かち合いたくて、背後にいたアヤトのほうを振り返って感嘆の溜息。
アヤトは微笑んでいる。
その目線に照れてしまい、慌てて水槽に意識を戻す。
「……桜井」
耳元で囁くように呼ばれた。
彼のシトラスの香りが心地良く鼻腔を擽る。
近すぎじゃね、と軽く振り返ったそのとき、一瞬触れるだけのキスをされた。
「……なッ……！」
ぱくぱく、酸素不足の魚みたいに口を動かしたが、言葉にならずそのまま絶句する。
素早くあたりを確認する。
先ほどと同じ。人はおらず、一瞬の遊戯をみていたのはペンギンたちだけだ。
「……続きは帰ったらたっぷりな」
余裕綽々言ってのけるアヤトに、真っ赤になった頬と尖らせた口唇で抗議する。
「このやろ、黙らせるぞ」
だめだ、怒った表情を維持できない。赤面したまま口元から崩れるみたいに笑ってしまう。
そんなラッセルの髪をくしゃくしゃっとしてアヤトもまた笑っている。
「俺を煽るなよー止まらなくなるからなー」
「煽ってねえし」
ただ、そう。この時間が終わりかけているのが少し寂しいだけだ。
でもその寂しさは今は誤魔化す。
「煽ってんの、そっちだからな。止まらなくなるのもお互い様だし」
ぼそっと呟き、本当の気持ちをそっと飲み込む。
……もっといれたらいいのに。ずっと、いつもどこででも。
（いや。わがままは言えねー。
離れた分、今、いてくれることだけでも感謝しねーと）
閉館の音楽が流れはじめた。
アヤトとラッセルが水族館を出ると、あたりは夕暮れを迎えていた。
西の方の空は太陽の沈みゆくのに合わせて、さっきのラッセルの頬みたいに真っ赤に染まっている。
東の方の空はもう群青色で、たなびく雲の影の部分が墨色に染まりつつあった。
「ああ、ほんっと楽しかった！ 付き合ってくれてありがとな」
「こちらこそ。桜井と一緒に来れて良かった」
そういって太陽の方を眺めたアヤトの横顔は穏やかで、綺麗だった。
気さくで、潔癖症で、兄貴肌で料理が得意で、けれど肝心なことは殆ど口にしてくれない。
どうして気が合っちゃったんだろうな、と今更ながらにラッセルは不思議に思う。
（んー……、割と似たところもあるか）
違う所もあるけれど……例えば自分の方が照れ屋な所とか……そういうところも尊重してくれていると感じる。だからかもしれない。彼の隣が心地いいのは。
「桜井」
「んー」
「俺、好きだよ、桜井のこと。いてくれてありがとうな」
そう言ったアヤトの笑顔は今日一番のもので。
（笑顔みれてよかった）
こちらこそ、いてくれてありがとう。
涙が出そうなくらい嬉しい。
ラッセルはその気持ちを笑顔にかえて、彼へと微笑み返したのだった。
あとがき
担当マスター：
笈地 行
ファンレターはマスターページから！
ご参加ありがとうございます！ ゲームマスターを務めさせていただきました笈地です。
桜井 ラッセル様と影野 アヤト様のプライベートシナリオをお届けさせていただきました。
猫のいない特別な日の水族館へのお出かけ、いかがでしたでしょうか。
またいつかこの続きも拝見したいと願ってやみません。
それではこのたびはプライベートシナリオのご依頼、まことにありがとうございました！
桜井 ラッセル様と影野 アヤト様のプライベートシナリオをお届けさせていただきました。
猫のいない特別な日の水族館へのお出かけ、いかがでしたでしょうか。
またいつかこの続きも拝見したいと願ってやみません。
それではこのたびはプライベートシナリオのご依頼、まことにありがとうございました！
シナリオ
シナリオデータ
シナリオスケジュール
- シナリオガイド公開日
-
- 2021年09月13日
- 参加申し込みの期限
-
- 2021年09月20日 11時00分
- アクション投稿の期限
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- 2021年09月20日 11時00分
