ニセ校長、現る？！｜リアクション

ニセ校長、現る？！

〇校長先生とシトラス・ガムダン

　羽生碧南は、退屈な授業中こっそりねこったーを見ていた。
　ＴＬには #校長目撃　のタブがあって、何気なく追ってみる。
　学校のあちこちで校長先生を目撃、と言う話があちこちに出ていた。
（ここは学校だし、校長先生がいてもおかしくはないけれど……でもさすがに同時にあちこち出没するのは……？）
　碧南は考え込む。
（もしかすると神魂現象？）
　わりとよくあることだが、別な可能性も考えてみる。
（それとも校長先生のニセ者？　実は校長先生の双子の兄弟？　実は校長先生のそっくりさんがなぜか全員集合？）
　……考えるだけでアホらしくなってきた。
　数学の授業をする桐島義弘先生の視線がこちらに向いて、慌てて碧南はスマホを机に居入れる。
　授業も半ばに差し掛かったところである。

　その時戸口のほうで音がし、軽くざわめきが起こった。
　何事かと目をやると。
（……えっ？）
　校長先生がいきなり現れた。
　困惑する皆を無視して、校長先生は口を開き。
「シトラス・ガムダン　ハ言イマシタ……」
　いきなり、いつもの挨拶のときのシトラス・ガムダンのありがたい話を始めた。
「え……？」
　桐島先生もさすがに校長先生相手では注意もできないのか、戸惑うばかり。
　とはいえ調子に乗ってしゃべり続ける校長に、さすがにこのままでは授業にならないと思ったのだろう。
「……すみません、授業中ですので後にしていただけませんか」
　だがそんな桐島先生をスルーして、校長は話し続ける。
　碧南は違和感を覚えた。
　違和感と言ったら教室でしゃべりだした時点で違和感なのだが、それ以外にもなんとなく……
（これは……？　もしかして校長先生じゃない？）
「校長先生！　質問です！」
　碧南は勢いよく手を上げながら、頭をフル回転させた。
　シトラス・ガムダンの話なら始業式や終業式のたび嫌というほど聞いている。
　最近は乙女ゲームの妄想をして聞き流すことも多いが、それでも３年も聞いているとずいぶん詳しくなった。
　校長は口を閉ざし、ゆっくりとこちらを向く。
（本物の校長先生ならちゃんと答えられるはず）
「シトラス・ガムダン曰く、この世で最も恐ろしいのは何ですか」
　
　教室内が静まり返った。
「……？　オソロシイ……フルヤノモリ？」
　何やらつぶやいた校長先生の姿をした者は、くるりと背中を向け、教室を出て行こうとする。
「やっぱり……校長先生じゃない」
　立ち去る校長先生のお尻から、尻尾が出ていた。

「何だったんだ……」
　呆然としてそれを見送り先生と生徒達。
「……授業の続きをするぞ」
　桐島先生は気を取り直して何事もなかったように授業を再開し。
　碧南は机の下で今起こったことを急いでねこったーに書き込み始めたのだった。

　ちなみに実際のシトラス・ガムダンの言葉はこうだった。
『――この世で最も恐ろしいのは『始める』行為を怠ることだ』

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