もちもち思い出、ねこじま和菓子ウィーク！｜リアクション

もちもち思い出、ねこじま和菓子ウィーク！

〇和菓子作りと思い出

「一緒に和菓子を作らないか」
「うん、いいよ」
　八神修は、七夜あおいを誘い駅ビル「ｍｉａｏ」へ向かった。
　和菓子作り体験の会場では、様々な和菓子作りを体験することができる。
「修君は、何を作りたいの？」
　以前買った修と同じエプロンをしながら、あおいが尋ねた。
　お揃いのエプロンに、心が浮き立つのを感じながら修は答える。
「芋きんつばだ。薩摩芋はあおいの好物だろう？」
「うん。でもきんつばってお芋でもできるんだ？」
　あおいの笑顔に、胸に温かいものが広がるのを感じながら修は言った。
「砂糖は半分で十分甘いし、繊維質は体に良い。罪悪感少なめだろう？」
「確かに。たくさんたべても大丈夫だね」
　プロの先生の説明を聞きながら、視線はついあおいの顔に向いてしまう。
（あおいが楽しさで満たされるよう心を尽くそう）　

　さつまいもはレンジでチンし、潰してはちみつや砂糖を加えて混ぜ、形を整える。
　それから片栗粉や薄力粉を溶いたものを薄く表面に塗った。
「あおい、もう少しよく混ぜようか」
　あおいがダマになった粉をどうしようか考えている様子を見て、修はよく粉を混ぜてみせる。
「さすが修くん、手際がいいね」
　やがて綺麗に表面に衣を塗れると、フライパンに並べて焼く。
「並んでるとなんだか可愛いいね」
「ああ」
　菓子の可愛らしさと、あおいが自分と同じ感想を抱いたことの嬉しさで、笑みも漏れる。
　完成した芋きんつばはなかなか綺麗に仕上がっていた。

「美味しそう！　修君、どこで食べる？」
　会場の空いたスペースに目をやるあおいだが、修は考えていたことがあった。
「屋上庭園で食べよう」
「そんなところがあるんだっけ？」
　二人は芋きんつばを持って屋上へ向かった。
　ぽかぽかといいお天気で、柔らかな風が吹いている。
　修はテーブルに持参のお茶ボトルと紙食器を出し、新緑模様の和紙を敷いた。
　あおいのための心配りだ。
「すごい！　修君、準備がいいね……この紙の上に乗せるとすごくきれいで美味しそう」
（いい感じだ）
　あおいの反応に満足しながら、お茶を飲む。
「うん、美味い」
　芋の優しい甘さを味わいながら温かいお茶を飲んでいると。

　突然、視界が変わった。
（これは……九夜山？）　
　見覚えのある景色。そして目の前にいるのは。
（俺じゃないか！）
　修は気づいた。これは……
「うん、私も、好きだよ」
　声はあおいのものだった。
　そう、新年度に九夜山ピクニックに行ったときの光景だ。
（あおいの思い出？！）
　記憶には思いが伴うのではないか、と修は思った。
（あおいの、気持ちは……）　
　全霊であおいの気持ちを感じよう、と集中する修。
　だが、わからない。
　このドキドキはあおいのものなのか、自分自身のものなのか。
　煩悶する中、その言葉が、やってきた。
「私、修君も……」
　あの時と同じく外野の声がかぶった。

　視界が元に戻った。
　目の前のあおいの、頬がうっすら赤くなっている。
「あれ？　修君？　私……夢を見たのかな？」
「あおいも、思い出を見たのか？」
「思い出？　私が見たのは、夢のはずだけど……えっ？」
　ふっと修の頭によぎったのは、なぜか「お姫様になりたいの！」と言ったあおいの姿だった。
「ああ……」
　甘えたくなったあの日のことを、あおいは夢だと思っていたのだろう。
「えっ？　修君は、ピクニックの日のことを……」
　そして修に伝わった思い出が、あおいにも伝わったのだろう。
「でもあれ、夢じゃなかったのかなあ……」
　だがやっぱり母の日のことが気になっているようだ。
　戸惑っているあおいを安心させるように。
　修は頷き、微笑んだ。