もちもち思い出、ねこじま和菓子ウィーク！｜リアクション

もちもち思い出、ねこじま和菓子ウィーク！

〇和菓子かしまし三人娘

　寝子高３年の吉住志桜里は、和菓子ウィークのチラシを手にうっとりとつぶやいた。
「和菓子屋さん巡り……なんと甘美な響きでしょうっ。これはシロと芹香ともども、繰り出さずにはいられませんっ」
　シロとは吉住獅百合、志桜里から一回り大きくなった身体で分離した存在で、双子の妹を名乗っている。
「和菓子屋さん巡り、？　行っちゃうよー」
　志桜里に誘われるがまま、獅百合は機嫌よく支度をした。
　呼び出された雨梨栖芹香もやってきた。
「今日は和菓子で勝負？　望むところだ！」
　芹香は木天蓼工業高校の不良もれいびで、志桜里の中学生時代よりの悪友にして宿敵である。
「芹にゃんも来たね。それじゃスタンプラリー、レッツゴー！」
　
「芹香、シロ。食いだおれる覚悟はいいかしら」
「ほんと甘い物好きだなぁクロ。妹が言うのも何だけど、よく太らないね？」
　志桜里は獅百合からクロと呼ばれている。
　ライトグレーの髪の獅百合に対し、志桜里の髪は黒いのでわかりやすい。
「パンＴはデカい足に栄養がいってんじゃね……へぶっ」
「その呼び方禁句ね。人目も多いんだから……」
　芹香にアイアンクローをかましつつ、志桜里は柔和に微笑む。
「武術の稽古で動けなくなるまで体を動かしてるし、食べたエネルギーは全部消えてるのかな。まあ、クロが動けなくなる原因はあたしなんだけど。フィジカルとスタミナはダンチで勝ってるからね」
　獅百合は天真爛漫に言う。
　１７７ｃｍの志桜里も十分な長身だが、獅百合はさらにその上を行く１９２ｃｍだ。
「きっとカロリー、いや糖分は大変なことになるのでしょうが、それは皆道場通い。動かして使い切っちゃえばいいんです、ええ」
　微笑みながら志桜里は言うが、心の中で思う。
（使い切るまで終わらない稽古が待っているとは、彼女達には言わないでおきますが）

「ついたよ。クロは何の和菓子が好きなの？」
　店に入り、並んだ和菓子を見つめる三人。
「和菓子といえば餡。つぶあん、こしあん、白あん、ずんだ等々沢山あると思いますが、私は……全部派っ」
　（聞いて損した）みたいな視線を獅百合と芹香から受けたが、志桜里はにっこりと笑顔で圧し切る。
「甘い物には目も無ければ節操も無いの。どれも美味しいのだから仕方ないでしょう？」
「まあ、わかるけどねー」
　その言葉通り節操なく、スタンプラリーに沿って様々な和菓子を買い込み、食べ歩く。
　いつのまにか３人の両手には、和菓子の袋がどんどん増えていった。

　風のない上天気。三人の足は寝子ケ浜の岸壁へ向いていた。
「さあ、幸せなスイーツタイムの始まりです！」
「はぁ……美味しい。色んなことがどうでもよくなるねー」
　和菓子のくどさのない甘みに、次々と手が伸びる。
　ずんだや餡子、きなこ餅にお団子、お饅頭に最中……
「ああ、止まらないっ」
「うわ、二人して弛みに弛んだカオ……ケンカのときと同一人物とは思えねー！」
　芹香が指を差して笑う。
「それは言うだけ野暮です。如何に平生の言われようが鬼でも恐竜でも、甘味を前にすればおやつゼリーを前にした猫のようになっちゃうのですよ……！」
　ずんだを食べ終えた志桜里は和み切った顔で言い。
　志桜里同様に弛みに弛んだ顔で獅百合は芹香に絡む。
「ほーら、あたしにもソレちょーだい？　あーん」
「え、そんな大きな口で食われたら……」
　たじろぐ芹香。
（私達にすればおやつゼリーを前にした猫の心境でも、体格的には豹と虎に絡まれているようなものだろうけれどね？）
「和菓子を齧られるか自分を齧られるか選ぶが良いっ」
「いいわね、それじゃ芹香はこれを食べるといいわ」

　そんな流れで岸壁での和菓子パーティーは、も交え、志桜里も交え３人絡んでの食べさせ合いっこになった。
「ねね、和菓子ウィークだけじゃなくてさ。これからも菓子パしない？　芹にゃんにも癒しは必要っしょ？」
「たまにはいいね」
　楽しい菓子パは、甘い香りとさざめく笑い声と共に続く。

　それから数刻後、道場での地獄のカロリー消費が待っているのだが。
　

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