ボードゲームを脱出せよ！　『Cliff＆Farm』｜リアクション

ボードゲームを脱出せよ！　『Cliff＆Farm』

「んー、いよっし」
　ラッセルはタオルで髪をまとめ、ヘルメットを装着。体に巻き付けたロープを引っ張ってほどけない事を確認。美和と目を合わせて頷く。
「んじゃま、ちょっくら行ってくるわ」
「桜井くん、先生、気をつけてね」
　ラッセルは蒼から水分を受け取って補給した。
『追肥の時期です、ってカードが出たわよ。ついに崖上の洞窟に行く時が来たようね』
　ブリジットからメッセージが届いたのは一時間ほど前だ。元々力仕事の為に来たのだからと名乗り出たラッセルの手元に、登山用具が出現したのには、美和が登るのと同じくらい驚いた。
「よっ……と。先生、確認完了だぜ」
「了解よ」
　海風に吹かれる湿っぽい断崖に、慎重に金具を打ち込み、ロープを固定して体を持ち上げる。
　夢中で登っているうちに、目もくらむような高さにまで到達してしまった。
「うひゃー……」
　青い波が岸壁に押し寄せて砕け、白い泡になって散る。吹き荒れる海風は強く、壁にしがみついて堪えるしかない。
「あ、桜井君、見て！」
　そんな二人の行く手から、海鳥が２羽、かっとんで来た。
「何だ、カモメか？　ってうわ！」
　彼らはギャアギャアとわめきながら攻撃してくる。振り払っても、執拗に。
「や、やめて！　わたし飛べないの！」
　必死で体を縮める美和の言葉に、ラッセルは身につけている金の鍵を思った。ろっこん『金のピヨコ』でカナリアに変身すれば、事態を打開することも――

（ゲーム的にズルになんねーかな？　そもそも発動するかも……）

　迷っていると、進行方向である崖の上に、更に多くの海鳥たちが舞っているのが見えた。
　海。崖。たくさんのカモメたち――ラッセルはひらめいた。
「そっか、お前ら子育て中なんだな！」
「え？　じゃあ、卵を守ろうとしているの？」
「……だと思う。先生、ちょっと移動しよう」
　崖を垂直に登るのではなく、斜めに移動していると、途中で細い道を見つけたので、ルートをそちらに変更。
　やっとの思いで辿り着いた頂上、問題の洞窟に入ると、キィキィと鳴き声がする。コウモリだろうか。地面にはフカフカの土が分厚く堆積していた。
「わざわざ土を運んで混ぜてある……これが肥料かな？」
「そうね。海鳥、洞窟、コウモリ……多分、アレでしょう。本で見たことがあるわ」
　難しい顔の美和に、そっと教えてもらったラッセルは、あぁ、と納得。以前生物部で飼っている鶏のモノを、園芸部が引き取りにきたことがあったのだ。
「まぁ、リサイクルって事ですね」
　頷く美和と共に、袋に肥料をぱんぱんに詰めて、ロープでそっと下に下ろした。
　そこからは、怒濤の展開だった。苦労の甲斐もあり、畑の実りは上々で、激しい獣たちの襲来に晒されるようになったからだ。
「仙道っ、そっち行ったぜ！」
「了解ッ！」
　ラッセルと蒼が息を合わせて獣の注意を逸らしているうちに、ののこと美和が素早く収穫を終えて東屋に運び込む。
　全て収穫して運び込み、４人でほっと一息つく。すると唐突に――周囲は光に包まれた。

◆

「ではー、『Ｃｒｉｆｆ＆Ｆａｒｍ』脱出を祝して、かんぱーい！」
「やった、トマトの丸かじりだー！」
『脱出お疲れ会』のグラスを打ち合わせ、蒼は目前の真っ赤な野菜にかぶりついた。爽やかな青臭さと、甘酸っぱさが混ざり合う味わい。ぷるんとしたゼリー状の種と、さっくりした赤い部分の歯ごたえがたまらない。
「いやー、うまいな、このサラダ！　部長がドレッシング作ったのか？」
「そうよ！　アンチョビをほんの少し入れてあるの」
　胸を張るブリジットの横で、ラッセル、ののこ、美野梨の３人が皿に山と盛られた野菜サラダをぱくついている。
　ここは星ヶ丘寮のブリジットの部屋だ。彼女が打ち上げを企画し、部屋を提供してくれたのである。美和は仕事で来られなかったが、デリバリーのピザを買ってくれた。
「トマトが食べたかったらお代わりがあるから、言ってね。塩や砂糖、マヨネーズも用意してあるから」
「ありがとう」
　ブリジットの言葉に甘え、２つ目のトマトを頂く。
　あの海沿いの畑で農作業に追われた期間は、ゲームの外ではたった数時間のこと、になっていたようだ。
　それはそれで、いいかもしれない、と蒼は思っていた。
　このゲームに挑んだ皆の達成感が、消えてしまう訳ではないのだから。

　美野梨の撮っていた動画が『ティータイムにゃんこ倶楽部』名で配信されたかどうかは――定かではない。

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あとがき

担当マスター：陣杏里
ファンレターはマスターページから！

皆様こんにちは。
『Cliff&Farm』の綴りを間違いそうになった、陣　杏里です。

汗ダラダラで家庭菜園やってた時の事を思い出しましたよ……。
リアクション中の農作業は、進行上の都合から、大分現実と異なる箇所がございます。
もし皆様が家庭菜園を始める場合には、しっかりとした資料に当たって頂くことをおすすめいたします。

ご参加いただいた皆様、わくわくのアクションをありがとうございました。
お読みくださった皆様、お疲れ様です。

陣　杏里でした。

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