ボードゲームを脱出せよ！　『Cliff＆Farm』｜リアクション

ボードゲームを脱出せよ！　『Cliff＆Farm』

『やったわよ、皆！　ついに苗を植えられるわ。『夏に向けて、夏野菜３点セットの苗出現。トマト＆きゅうり＆なす』だって』
『あ、支柱と紐も出るそうですよ』

「いぃやったー！」
　ブリジットと美野梨メッセージに、『Ｃｌｉｆｆ＆Ｆａｒｍ』内にいる４人は飛び上がって喜んだ。
「あぁー、もう！　やっと苗を植えるところまできたのね！」
「ほんとにな！」
　美和とラッセルがグータッチする様に、蒼は笑って汗を拭いた。
「まさか、農作業がこんなに大変だったとは」
　ゲーマーとしての興味から『Ｃｌｉｆｆ＆Ｆａｒｍ』に挑んだ蒼だったが、中に入ってみれば、シミュレーションゲームではなく、本物の農作業をする羽目になった。
「だよねぇ。私の背と同じくらいの草が生えてるし」
「そうそう。雑草の根っこ強すぎ。途中で美野梨ちゃんが機械とか、休憩用の東屋とか出してくれなかったら、詰んでたかも」
　蒼はののこと一緒に東屋の椅子に座り、汗を拭いてはちみつレモンを飲む。
　草は深く地面に根を張って抜けないし、やっとこさ抜いたと思っても、地面は固く、耕さなければとても苗を植えられない。
　ブリジットや美野梨が外から農作業の指示を出し、イベントを起こしてくれなければどうなっていたことか。
「おおぃ、何か梅干しも出現したぞー」
　同じように汗を拭いて体を休めていたラッセルが、梅干しの皿と箸を持ってきてくれる。
「え、すご！　至れりつくせりだねぇ」
「私は２個食べようかな」
　ののこは酸っぱさに口をすぼめ、蒼はゆっくりと口の中で梅干しを味わった。
「よーしみんなー！　梅干しとはちみつレモンで元気でたかー！？」
　美和の号令に、ののこ、ラッセル、蒼は元気よくこぶしを突き上げた。
「じゃー、クリア目指してがんばろー！」
「おー！」

◆

「ブリジットさん、次のイベントは？」
　美野梨はブリジットがダイスを転がすのを、じっとスマホの動画撮影機能で撮っていた。
「どうしよう、こんなの出たわ」
　心配そうなブリジットの手には『虫大量発生！　割り箸でイモムシをムシりまくれ！』の文字と、ショックを受ける農夫のカード。
　彼女がスマホでメッセージを送ると、程なくして悲鳴の返信がくる。

『せっかく良い感じで育ってた苗に、しま模様のイモムシがたくさん！　気持ち悪い！』
『取っても取ってもわいて出るんだが！』
　ののことラッセルからだ。灰色ボディに黒い縞模様のむっちりイモムシの写真つきである。

「もー、イモムシの写真送らなくていいから！」
　ブリジットががっくりしていると、背後から「にゃぁん」という鳴き声と共に猫が飛び移ってきた。ゲームショップのソファで寝ていた野良だ。
「えっ？　もぅ、何よ」
　ブリジットの肩からテーブルの上に移った三毛猫は、ボード上でちょこまかとひとりでに動いている（！）フィギュアをじーっと見て、尻尾をふりふり。
『ちょっと、そこは通らないで』
　美野梨がろっこん『友との語らい』で呼びかけた時、ブリジットがそっと猫を抱き上げた。
「そこはだめよ。おやつあげるから、ソファで大人しくしておいてね」
　巨大猫降臨でゲーム終了、の危機を乗り切った二人は、ふぅ、と一息つく。
『お人形は食べ物じゃないから、口に入れるのはやめてね』
　美野梨は猫に話しかけ、ブリジットと共に猫をソファへ連れてゆく。後はもう、美野梨のちくわと、ブリジットのカリカリで猫まんぞく！の運びである。
「……ふぅ」
　二人は暫し猫とたわむれ、ゲームを忘れそうになったものの……思い出してボードの傍に戻る。
　美野梨がスマホをかまえ、ブリジットがサイコロを振ってイベントカードをめくった。
「うわぁ……また、辛そうなイベントが」
「えっ？」
　美野梨が見たものは、照りつける太陽に苦しむ農夫のイラストと『猛暑襲来！　熱中症を防げ！』の文字だった。

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