歌ってみよう／踊ってみよう｜リアクション

歌ってみよう／踊ってみよう

「デビューしたてのラッパーカンヅメにして取ってこいってのが１万PV？」
　そう言った吉住志桜里は微塵も気後れしていない。
「OKやったろう、ギャラなしってのも気に入ったし。As you know 先人風に言えば"rapすりゃそりゃアップする宣伝効果"ってとこかしらね」
　ポジティブな志桜里の負けじ魂に火が付いた。

　純和風な家に育った志桜里は、反動かヒップホップが好きになった。
　MC『440Re』としてDJの相方とユニット『Greedy Cats』を結成し活動中している。
　ちなみにMCとは、ヒップホップ・ミュージックでラップをする人のこと。
　現在では単なる司会者と特に分けて、「microphone controller」の略語であると解釈される。

　志桜里は好みの動画を思い浮かべつつ、配信の構成を考える。
（前奏前にフリースタイルをねじ込んで意表を突いてみようか）
「演出は……ライブ風の光に別撮り動画を差し込みつつ、フリースタイル込みの合法的ひとっトびをデリバリーよ！」
　志桜里は先日相方に作ってもらった、ターンテーブルパフォーマンス動画を思い出す。
「うん、あれを繋げよう」　
　構想ができれば、選ぶは和服をアレンジしたクールな衣装。
　武術で鍛え上げた長身の体躯に纏う。
　準備はOKだ。
　眩い光の効果を入れ、ラップを刻み、志桜里は力強く歌い始める。
　フリースタイル、つまり即興の歌詞である。

　──Ay,ay,始めるぜCatch me if you can　
　勝ちに行くターン
　声枯らすまでわからすか黙らすか
　そう図らずとも負かすさ　
　でもBig upにゃ美学が必要
　質より量の自問自答
　止まらない疑問終わらないBeat　
　困らない血と汗滲む死闘いつまでもI'm da shit
　おひとり様？　いやいやいるんだなそれが Just hear
　このスキルバースひた焦がすスキール音
　
　ここまで一息に歌い上げ、相方の動画に繋ぐ。
　ターンデーブルを回す奏法、ループ再生、スクラッチなどが駆使されている。

　──Show must go on 始めよう暴走を
　Greedy Cats in da place to be！

　ファファファファーン！
　レゲェホーンを連打して盛り上げ、イントロへ繋げていく。
　そこにはPVのための媚はない。
　ただ表現したい思いがあるばかりだ。

　ラップのリズムに乗るかのように、鰻登りにPVが伸びた。

　気が付けばシーサイドタウンのシェアハウス。
　自室に立っている自分がいた。

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