歌ってみよう／踊ってみよう｜リアクション

歌ってみよう／踊ってみよう

　お題をこなさないと出られない部屋に戸惑っていた佐藤英二は、覚悟を決めた。
「動画配信するしか脱出方法は無さそうだし……こうなったら、恥はかきすての精神で頑張ってみよう！」
　パソコンを操作し、曲を探す。
「ここは素直に慣れ親しんだアニソンを歌ってみよう」
　英二はアニメや特撮作品（特にゴアラ関連）を観るのが好きで、カラオケに行くとそのテの作品の歌をよく歌う。
　とはいえ、注目を集めたり、目立つのは苦手だ。
　いくら恥はかき捨てと思っても限度がある。踊ったり、衣装に凝るのは敷居が高い。
「普段着で普通に歌うってことで」
　それでどれだけの人が見てくれるのか自信はないが、やり方によっては興味を持ってもらえるかもしれない。
「個人的には選曲で攻めたいな。何と言うか“この選曲のチョイス。こいつ解ってるよな”感があれば……」
（少なくとも僕なら、高評価で視聴したくなるし）
　画面の向こうの視聴者が、英二の趣味に共感してくれることを信じるしかない。

　アニソン・特撮ソングのの一覧を眺めながら英二は考える。　
（燃えるロボットアニメソングのメドレー？　それとも、テンションの上がる特撮ヒーローソングメドレー？　ノスタルジックさ溢れる曲（特にＥＤソング）のメドレーもいいな。いっそ知る人ぞ知る……マイナーな、でも個人的に好きなアニメ、特撮ソングのメドレー。作品ジャンルを絞った（例えば世界名〇劇場系のＯＰ、ＥＤ）メドレーとかも）
「あとは、単純に個人的に好きなノリの良い曲のラッシュとか」
　どれがうけるかなんて、考えていても始まらない。歌ってみれば自ずと結果が出るはずだ。

　緊張しつつスタートボタンを押すと、前奏が流れ出す。
（まずは『希望戦士ニャンダム』のOPからだ）
　歌い始めると、どんどん気分が上がってくる。
　そうなるといつものヒトカラの気分で、どんどんいろんな歌を歌いたくなる。
　ゴアラの映画の歌だったり、最近大人気の鬼と戦う剣士たちのアニメ映画のOPだったり。
　急な伸びこそないものの、視聴回数は地道に上がっていった。
　気持ちよく歌っているうちに、ついに視聴数は１００００に届いた。

「最初、戸惑ったけど……なんとかなるもんだな」
　自分の部屋に戻った英二は安堵した。
　やってるうちに１００００再生ノルマとか忘れて楽しくなってきた感がある。
　しかしふと英二は気づく。
「後で、誰かに「動画観たよ」なんて言われちゃったりしたら……」
　気になる野々ののこの顔が浮かび、グハッと吐血しそうな気分に襲われる英二だった。

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