歌ってみよう／踊ってみよう｜リアクション

歌ってみよう／踊ってみよう

　寝子島アニメーション学院声優科の落合まゆらは、２７インチの大きなモニターとWEBカメラに、デジャヴを感じた。
　壁の文字を見ると案の定だ。
「＜歌ってみよう／踊ってみよう動画＞を撮影してMewtubeに投稿しないと出られない部屋」
　マニュアルも見て条件を確認する。
「まあ、以前にも神魂の影響でこんなことをさせられたけど」
　今まで神魂の影響でいろんな不思議なことに出くわしていたので、特に慌てることもない。
　この前はVMewberで、視聴者数１００，０００人突破しないと出られない部屋だった。
（それに比べれば今回の視聴回数１００００回は楽勝だよね）
　声優を目指すまゆらにとって、ダンスも歌も特技なのだ。
「元々動画配信はしてみようと思ってたし、これを機に自分のチャンネル持っちゃおうかな？」

「で、私がやるべきことはもう決まってるんだよね」
　カラオケで曲を選ぶような気軽さで、動画を探す。
（一応＜歌ってみよう＞系の動画だけど、＜踊ってみよう＞の要素もあるので、＜歌って踊ってみた＞という感じになるのかな？）
　そして壁の数ある衣装に目を走らせる。
　すぐにそれは見つかった。
　白と赤とピンクを基調にしたエプロンドレスのような衣装に、丸みを帯びた羽飾りつきの靴。そして魔法のステッキ。
　それは「魔法少女ミスティックアリア」のコスチュームだった。

　アリアは、まゆらにとって声優を目指す原点になったヒロインだ。
　今まで何度もコスプレしているし、決めポーズも決め台詞も完璧だ。
「これは何度歌っても燃えるよね、え？　魔法少女なのに燃えるって？　いいの。だって魔法少女だけど格闘得意なんだから！」

　アリアのコスプレ衣装を身にまとうと、力が湧いてくる気がする。
　スタートボタンを押し、イントロが流れ出す。
　まゆらの中でスイッチが入った。文字通りアリアになりきって歌い踊る。
　毎朝早起きして寝子ヶ浜海岸でボイストレーニングしているまゆらの声は、伸びやかで安定感がある。
　そしてアリアを好きな思いは誰にも負けない！
　思いを乗せた歌とダンスに、視聴回数はぐんぐん上がりだした。
「世界に大いなる神秘の輝きを！　魔法少女ミスティックアリア！」
　決め台詞と共に、視聴回数は１００００を突破したのだった。
「ふふ、決まったね！」

　気が付けば部屋は消え、まゆらは元の服装で元の場所にいた。
「物足りないなあ。もうチャンネル作っちゃおうかな？」　
　どうせなら視聴回数１００，０００は欲しい、と思うまゆらだった。

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