寝子島、花と緑の博覧会『フローラル＆グリーン』｜リアクション

寝子島、花と緑の博覧会『フローラル＆グリーン』

〇ジャンボ藤棚と観覧車

　寝子高３年の御巫時子は、花と緑の博覧会を楽しみにしていた。
　一人で回るつもりではない。
「尚輝先生にお会いしたら花と緑の博覧会にお誘いしましょう」
　大好きな五十嵐尚輝先生と一緒に行きたい、と時子は願っていた。
「博覧会ですか」
「ええ、旧市街に大きな藤棚があるので行ってみましょう」

　行ってみると、予想以上に幻想的な光景が広がっていた。
「紫のカーテンのように綺麗ですね。見上げながら歩いてると別世界の様です」
　時子の言葉に、先生は頷く。
「そうですね」
　時子は、先生のほうへ手を伸ばした。

「つい見惚れて逸れないように先生と手を繋いで歩きたいです」
「さすがに御巫さんとはぐれるほどボーッとはしてませんよ」　
　そう言いながらも、尚輝先生は時子に手をつながれるままに任せていた。
「そうならいいんですけど……」
「ええ。だって今は実験中じゃありませんから」
　大真面目に答える尚輝先生に、時子は可笑しくなった。

「あら？」
　肩に何かが落ちてきて、花粉？　と思ったとき。
　尚輝先生の髪から鳥が飛び出してくるのが見えた。
　そして――
　藤棚の下を尚輝先生と歩いている。それは変わらない。
　だが、時子は腕に赤ちゃんを抱えていることに気づいた。
　興味津々の瞳で、赤ちゃんが藤の花に手を伸ばしている。
　尚輝先生は時子の顔を見て微笑み、時子も思わず微笑み返した。
　二人が見つめている、この子は……。
（ぱっちり瞳は私似で、癖っ毛なのは尚輝さん似。性格はどちらに似てるでしょうか？）

　その時、視界が揺れると共に、腕の中から赤ん坊が消えていることに気づいた。
「夢……？」
　隣を見ると、手をつないだまま尚輝先生がボーッとしていた。
　頭の鳥は消えていた。
「尚輝先生も夢を？」
「……ああ、夢だったんでしょうか」
「私は幸せな未来の夢でした。先生は？」
「……さあ、そうではなかったような……」
「先生？　教えてください！」
　結局夢の内容を聞き出すことはできなかった。
（でも私は、確かに幸せでした……）
　ならば、いいのだと時子は思う。

　夕方から夜に変わる時間帯。
　時子は尚輝先生と共にシーサイドタウンに向かった。
　目指すは花の観覧車。
「昼ではだめなんですか」
「だめではないですけど、今の方が素敵だと思います」
　尚輝先生の質問に答えつつ、時子はやってきたゴンドラに乗り込んだ。
　観覧車が回るにつれて、ゆっくり景色と空の色が変わっていく。
　そして、徐々に光の花が開くように、さまざまな地点がライトアップされていく。
「光の花が咲いていくみたいですね」
「そうですね。こんなものが見れるとは思いませんでした」
　感心したような尚輝先生の声に、時子の心は温かくなる。
「この時間帯に来れて良かったです」
　時子が微笑むと、
「僕もです」
　尚輝先生も小さく笑みを返してくれた。

　観覧車を下りるともう夜だった。
「もう少し先生と一緒に居たかったのに、帰る時間ですね」
「家まで送ります」
「ありがとうございます。明日も会えるのに寂しいです」
　帰り道、星ヶ丘寮の前まで尚輝先生は一緒に歩いてくれた。

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