『NYAN☆DO』行こう！｜リアクション

『NYAN☆DO』行こう！

　　　１

　五月某日日曜日。天気は晴れ。
　突き抜けるような青空と真っ白な雲目掛け、落合まゆらは思い切り伸びをした。
「いーい天気っ」
　過日、春アニメ「春の音を奏でるのは君」にて声優デビューを果たしたまゆらであるが、いかんせん、「協力：寝子島アニメーション学院」の一人としてであり、ノンクレジット、ノーギャラ。役にも名はなく、ガヤ。
　これで声優と言えるのか、いや紛れもない声優デビューだと自問自答を繰り返す日々である。
　将来のことを考えるだけでゴロゴロのた打ち回りたい衝動に駆られていたが、くさくさしていても仕方がないと散歩に出てきたのだった。
　買い物でもすればいい気分転換になるのだろうが、しがない声優の卵にそんな予算があろうはずもない。ため息をついたまゆらの目に、百メートルを超す長蛇の列が映った。
　その傍を矢印のついたプラカードを持つニャンドゥがうろうろしており、列がどんどん前に進み始める。
「あー……そっか、今日か」
　百円均一ショップ「NYAN☆DO」。全国で千店舗以上を展開する、大手チェーンである。
　ニャンドゥはそのマスコットキャラクターで、とぼけた顔をした二足歩行の猫だ。行動的な猫で、未知の場所や品物を探して旅をしている。そうして持ち帰ってきたのが「NYAN☆DO」の商品――という設定だ。
　マスコットキャラクターが猫であること、店の名前、何よりその豊富な品揃えから、住民たちはいつ寝子島に店舗が出来るのかと心待ちにしていた。
　その待望のオープン日が今日だったのである。
　まゆらは持ってきたお財布の中身と、チャージしてある電子マネーの金額に相談し、
「……よし」
　脳内大蔵大臣の許可が出たため、自分も列に並ぶことにした。

　佐藤英二は並ぶのが嫌だったので、午後に行くことにした。着いたのは十二時少し前で、並ぶことなく入店できた。が、予想に反してまだまだ客の数は多い。オープン初日だから当然だが、混んでいるように感じないのは、店舗面積が全国でも最大規模、ちょっとしたショッピングモール並みだからだろう。
「午後からで正解」
と英二は呟いた。
　英二はまず、文具売り場に向かった。何しろ学生だから、シャーペンや消しゴムはよく使う。それにボールペン、付箋も買っておいた方がいいだろう。マーカーも消耗品だから何色か揃えて、とぶつぶつ言いながら、カゴに商品を放り込んでいく。
「そうだ」
　他にも整頓用のボックスを買っておこう、とレジに向かいかけて回れ右する。
　しまうのは未完成のプラモやアニメのDVD、ＢＤなどだ。何種類かサイズが必要だな、と棚を眺める。プラスチックと組み立て式、どちらにしようか悩み、持ち帰ることを考えて後者にした。

「ふうっ、激戦だった……」
　まゆらは衣料品コーナーを後にした。
　百円均一と言いながら、二百円、三百円、果ては五百円の品とて珍しくない昨今、「ＮＹＡＮ☆ＤＯ」はオープンセールの三日間、全商品を百円（税抜き）に統一していた。
　想像してみてほしい。普段、五百円の品が百円なのである。当然、客はそこに群がる。
　しかし三百円、五百円の商品は数が少なく、あっという間に売れてしまった。訪れた客はただで帰るわけにいかず、その行動は二通りに別れる。
　次に高値の商品が出るのを待つか、諦めて悔し紛れに百円の商品を爆買いするかである。
　まゆらは後者だった。
　といっても、彼女が買ったニャンドゥのＴシャツは、「ＮＹＡＮ☆ＤＯ」オリジナルブランドということもあり、元々百円だ。他のブランドＴシャツと比べて質はいささか落ちるものの、ワンシーズンだけ着るには問題ない。
　まゆらは最初からこのTシャツが目当てだったのだが、悔し紛れの客が押し寄せてきて、危うく買いそびれるところだった。
　ニャンドゥが冒険に出発すべく、ありとあらゆる装備を身に着けているプリントは、どこかユーモラスだ。
　これは自主トレや学校での実習に使おうとまゆらは思った。ニャンドゥと共に冒険に出るのも、悪くない気がした。

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