『NYAN☆DO』行こう！｜リアクション

『NYAN☆DO』行こう！

　　　２

　英二は食品コーナーにいた。
　カゴに放り込んだのは、剥き甘栗やきなこ飴に桜大根といった駄菓子、それにポテトチップスなどのスナック菓子だ。賞味期限を確認しつつ、どれがいいか物色していると、隣からうんうんという声が聞こえてきた。
　見下ろせば、小さな子が懸命に手を伸ばし、最上段のチョコレートを取ろうとしている。
　手を貸すのは簡単だが、ふといたずら心が芽生えた。
　英二は袋の中から、まだタグにシールがついたままの“それ”を取り出し、しゃがみ込んだ。四歳ほどの男の子は、きょとんとした顔で“それ”と英二を見ている。
　英二はにかっと笑って見せ、“それ”を動かした。男の子の顔がパッと明るくなるのを確認し、手渡す。
　男の子は受け取った“それ”――マジックハンドを動かし、最上段のチョコを掴もうとするが、なかなか狙いが定まらない。
「頑張れっ、そこっ、惜しいっ！」
　英二は手伝いたいのを我慢して、応援した。
　苦戦すること三分。遂に目的の品を手にした男の子は、満面の笑みで「ありがとう！」と言って、走っていった。
　英二もにこにこと手を振り、あ、と呟く。
「間もなくタイムセール」と書かれたプラカードを手にしたニャンドゥと男の子が、正面衝突したのだ。
　危ないっ、と叫ぶ間もなく、盛大にひっくり返ってしまった。――ニャンドゥが。
　大きな音を立てて尻餅をついたニャンドゥを、スタッフが慌てて助け起こす。どうやら男の子を避けようとして――英二からはぶつかったように見えた――、一人で滑ってしまったらしい。
「運動神経いいのか悪いのか」
　あれじゃ冒険なんて出来ないだろう、と英二は苦笑し、嵩張る大荷物を抱えながらレジへ向かう。
　いい買い物をした。いい日曜だった、と英二は思うのだった。

「間もなくタイムセール」の下に書かれているのは、「期間限定コラボ『酢豚の飛車角』監修缶詰」の文字だ。
　あまり運動神経が良くなさそうなニャンドゥが、プラカードを掲げてダバダバと走っている。その様子がやけに滑稽で、却って目立っているようだった。
　割れたマグカップの代わりにプラスチック製のそれ――一見するとホーローのようだ――を買い、次はどこに行こうかと迷っているところだったのでちょうどよかった。
「うわぁ……ここもかあ……」
　まゆらは、うんざりした声を上げた。
　ニャンドゥの宣伝が効いたのか、単にタイムセールの魅力ゆえか、食品コーナーに置かれた特設ワゴンの周囲には、大勢の客が集まっていた。――まゆらもその一人であるが。
　ニャンドゥが息を切らせながらその傍に立ち、隣では笑顔のスタッフがマイクを握り締めている。
「ただいまから、タイムセールを実施いたします！　こちらおひとり様二点までとなります！」
　その声を合図に、客がわっと押し寄せる。まゆらも負けじと突撃した。
「ちょっとどいて！」
「痛い痛い！」
「それ、わたしの！」
「あ、落ちた！」
　様々な声が飛び交う中、まゆらは缶詰を一つ握ってワゴンから離れた。「酢豚」と書かれている。
　見れば周囲では、交換会が始まっていた。皆、中身を確認しないで手にしたらしい。
　なかなか平和でいいな、とまゆらは思った。彼女自身は酢豚に不満はなかったが、急遽始まったこのイベントにちょっと参加してみたくて、まゆらは手を上げた。
「酢豚と交換してくれる方、いませんかー？」
　すかさず、「はいっ！」と声が返ってきた。三十歳前後の男性が、やはり缶詰を持って近づいてくる。
「よかった。酢豚が食べたくて……あ、小籠包で大丈夫ですか？」
「大丈夫です」
　にっこり笑って缶詰を交換すると、男性は嬉しそうに何度も頭を下げてレジへ向かった。その後に続くのは何だか気まずく、まゆらは未だ続く交換会を何となしに眺めた。
気晴らしに訪れた「ＮＹＡＮ☆ＤＯ」だったが、思った以上に楽しい。まだ予算は残っているし、次は化粧品売り場でリップスティックを買おう、と考えながら、購入したばかりの「ようこそぼくの村」タオルで汗を拭うまゆらだった。

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