春のボードゲーム会｜リアクション

春のボードゲーム会

☆春のゲームをプレイするのは君

　寝子島アニメーション学院声優科の学生、落合まゆらの初出演作春アニメ『春の音を奏でるのは君』が放送された。
　声優の卵の卵であるまゆらはガヤを何本かこなしただけなので、当然のことながらノンクレジット、ノーギャラ。
　単に「協力：寝子島アニメーション学院」と出ただけだった。
（それでも一応は声優デビュー。これから先は……）
　なんて考えても、急にオファーがあったりはしないし、アニメ雑誌を隅から隅まで読んで自分の評価を探すのにも疲れた。

（気分転換にキャットロードをぶらつこうかな）
　歩いていると、子供たちの声が聞こえてきた。
「Ze Petでボードゲーム大会をやるって、行こうぜ！」
（ボードゲーム大会かあ）
　実家のミリオタの兄がウォーゲームをやっていて、半ひきこもりの中学時代に何度か相手をしたことがある。
　最近は『クラン＝Ｇ』というゲーム＆ホビーショップで店長代理の少女とボードゲームを楽しんで、負けたもののけっこう手ごたえを感じている。
（たまには違うところでやるのもいいかも）
　ところが角を曲がると。
「えっ」
　まさにその『クラン＝Ｇ』の看板娘、三佐倉千絵がZe Petの様子を伺っていた。
　私服で、いつもの店の緑のエプロンはつけていない。
　店内から見えない位置で、入ろうか迷っている様子にも見える。
（ああ、敵情視察ってことかな？）
「千絵ちゃん？」
　声をかけると。
「ひゃあ！」
　小さく悲鳴を上げてからまゆらに気づいて、
「もう、脅かさないでください」
　軽く睨んだ。
「脅かしたわけじゃないんだけど……ボードゲーム大会に来たの？」
「えーっとまあ、そんな感じで」
「それじゃ一緒に参加しない？」
　瞬きをした千絵は一瞬後頷いて、
「喜んで」
　と答えたのだった。

　店内は子供たちで賑わっていたが、学生らしい人たちもいた。
　会場で素早くラインナップを確認した千絵がカードゲームを手に取る。
「ニャンジャモンジャがありますね。人気あるから取られないうちに、これにしましょうか」
「そうなの？」
　一回目に引いたモンスターに名前をつけて、次に早く正しい名で呼んだ人がカードをもらえるという。
「名前、つけるの？」　
　ピンク色のモンスターを眺めながらまゆらは迷う。
　自由だとけっこう難しい。
（凝った名前にしても次に覚えている自信もないから、ぱっと見のイメージで……？）
　悩んだまゆらは、
「ピンクナス！」　
　と見た感じのイメージで命名した。
　その後何枚か引いたカードに、互いに名前をつけていくが、とても覚えきれそうにない。
　次に引いたカードに見覚えがあった。
「ピンクナス！」
　叫んだのは千絵だった。
　その後もほとんどのカードを千絵に持っていかれた。
「小学生の記憶力には勝てないよ……」
　声優で良かった。舞台に立つなら記憶力に自信がないなんて言ってられない。

「それじゃ次行きましょう。今度のは記憶力関係ないです」
　千絵はクラッシュ氷ゲームを取り出した。
　確かにルーレット運が大きいゲームだったが、氷を崩すテクニックが求められた。
　その次はにゃん生ゲーム。
　結果、まゆらは全戦全敗だったが、十分楽しめた。
　ゲームの面白さもだが、楽しそうな千絵の顔を見ていることも。

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