サンジョルディ／本と花につつまれて……｜リアクション

サンジョルディ／本と花につつまれて……

●贈る本に込める思い

　葉月朱真が自室で過ごしていると寒河江和光からメールが届いた。

『サンジョルディの日、赤いバラを貴女に贈ります。つきましては、貴女の好きな本を一冊、私に選んでいただけますか？』

　彼女は『サン・ジョルディの日』を知らないわけではないが、赤いバラが和光にまたなんとも似合いそうだとほほ笑んだ。
　『サン・ジョルディの日』は、男性は女性に赤いバラを、女性は男性に本を贈るというのが一般的だ。だから和光はバラを贈ると朱真に伝えたのだが、朱真は渡す本をどうするか考えている。

（わたしの好きな本、か）

　プレゼントは贈る相手が好きなものを選ぶのが基本だが、朱真が好きな本から選ぶというのはなかなか難しい。

「優しい人だから、何を贈っても喜んでくれそうな気がするし、頭の良い人だから、どんな本でも読んでくれそうな気はする。しかし、それだけに、難しいな……」

　朱真はメールを確認した旨を返信したが、渡す本については触れなかった。

　　　＊　　　＊　　　＊

　当日。
　朱真は私宅で和光を待っていた。
　ここは星ヶ丘にある葉月家の別邸で、春らしい柔らかな日差しが窓から差し込んでいる。
　しばらくすると、和光が約束していたとおり、赤いバラを持って来訪した。

「ようこそ、和光さん」
「こんにちは、朱真さん」
「こちらに来てもらうのは久しぶりかな」
「そうだね」
「直に会うのは、ホワイトデーにネックレスをもらって以来だね。あの時は、どうも、ありがとう。今日も着けているよ」

　朱真が首から下げたそれを彼に見せると、和光は嬉しそうにほほ笑んだ。立ち話もほどほどに、朱真は和光を部屋へ招き入れた。お茶とそれに合うお茶請けを用意すると、改めて向かい合った。

「では、私からはこれを贈るよ」

　和光は持参したバラを朱真に渡すと、彼女はそれを受け取った。色合いが綺麗なだけでなく、ほのかな香りが存在を主張している。

「ありがとう。さて、わたしからの贈り物だが、これを用意した」

　朱真はそう言いながら手にした本を和光に差し出す。

「わたしの運営する『アケノイロ・パズル』の最新刊だ」

　『アケノイロ・パズル』は朱真が『アケノイロ』という名義で発表しているパズルゲームの総称で子供向け・初心者向けからマニア向けの超難問まで幅広く取り揃えている。

「詳しいことは言えないが、物理書籍の形でしかできないギミックを仕込んである。あなたならきっと正解に辿り着けると信じて、これを贈るよ」

　和光は礼を言いながら、それを受け取る。赤いバラと本を挟んで、２人は優しく微笑んだ。

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