サンジョルディ／本と花につつまれて……｜リアクション

サンジョルディ／本と花につつまれて……

●本選びは難しい

　神野美野梨は寝子島高校の図書室で『サン・ジョルディの日』と題したポスターを見かけた。

（いいわね、バレンタインと違って手作りかどうか悩むこともないし）

　彼女はそう考えて帰り道、近場の本屋へ入っていった。
　本棚に多様な本が収められている光景のなか、おすすめコーナーが作られている。ただジャンルの特集ではなく、比較的手軽に読みやすいものが並べられている。
　一般的に、男性は女性に赤いバラを贈り、女性は男性に本を贈るというのが現在の習慣だ。美野梨には贈る予定の相手はいるものの、贈りものが本というのは手作りとは別の悩みを生む。

（どうしてもセンスが問われるし、選ぶのはなかなか難しいわ。彼に贈るなら、何の本がいいかしら？）

　おすすめコーナーを眺めつつ、いくつもの棚の間を歩く。

（魚図鑑？　それとも気の利いたミステリかしら）

　本を手にとり、ペラペラとめくってはそれを本棚に戻す。そんなことを何度も繰り返しながら目的の本を探す。ここに入ってからそれなりに時間が経った。これだけ本があるのに、贈ろうと思う本がなかなか見つからない。

（もし気になる本が無ければ、しまりす書店に行って探してみましょう。予算的にあまり高い本は無理だけど）

　美野梨はそう思いつつ、探索を続ける。するとライトノベルの書棚に面白そうな本があった。『魚屋の安楽椅子探偵が、日常の謎をカレイに解く！？』というタイトルで、ジャンルはミステリのようだ。
　概要は中学３年生・西添りのが学校や近所で起こった不思議な事件を魚屋で働いている男性に話す。すると、その男性が事件の真相を解いてしまうというもの。

（家が魚屋でミステリ好きな彼にぴったりね。イラストもちょっと彼に雰囲気が似てるわ）

　ようやく探し当てた一冊を嬉しそうに抱える。まさかその本人がモデルだとは知る由もない。さてこれで決まったかと思った直後、美野梨にある疑念がわく。

（でも、もしかしてもう持っているかも？　本のプレゼントはこのへんが難しいのよね）

　相手が好みの本というのは、既に相手が持っている可能性が高い。先に確認しようと思い、メールで尋ねてみる。

『面白そうな本を見つけたけど、知ってる？』

　送信後、しばらく待ってみるが返事が来ない。どうしようか考えた末、思い切って買うことにした。

（贈る前に私も読んでみたいし）

　購入して帰宅するとさっそく読み始める。内容は予想通り面白かったし、彼の好みだろうと思ったが、あまりにも登場人物が本人に近すぎて驚いてしまった。

「これ……贈らないほうがいいのかしら？」

　まだ来ない返信を思いながら、美野梨は小さく呟いた。

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