大蝦蟇さまの寝子島名酒紀行｜リアクション

大蝦蟇さまの寝子島名酒紀行

●大好きなカエルとともに

「カエルさん！」

　一原みとは目を輝かせながら声をあげた。
　視界には様々なカエルがいて、カエルが大好きなみとはテンションが上がっていく。

「すごーい、えっと、ガマガエルさんかな？　他のカエルさんもいる？」

　みとはカエルについてとても詳しい。
　じっと観察していると、特徴を持ったカエルはだいたい分かる。
　だからこそ、様々なカエルがいることが分かると一層気持ちが盛り上がる。

　このカエルたちが大蝦蟇の小姓なのだろう。
　しかし様子を見ていると、開放的な気分なのか、羽目を外した振る舞いが目立つ。

「あっ」

　そのうちの１匹が店の商品を手にとると、そのままどこかへ行こうとしているのを目撃した。みとは駆け寄ると声をかけた。

「えっとね、お店の物は、だまって持って行ったらダメなんだよぉ」

　話しかけられたカエルはきょとんとした様子でみとの話を聞いている。

「お店のひとも、お金をはらってじゅんびしたものだから……お金をはらわないとダメなの。カエルさん、お金、持ってる？」

　カエルは『持っていない』とジェスチャーを交えて返事をする。みとは少し考えてポケットを探る。

「みとはね……ちょっとならあるよ！」

　そう言いながらポケットから５００円玉を取り出した。
　カエルフィギュアのガチャガチャ用に持っているお金だ。

「……カエルさんのほしいものに、足りないかなぁ……」

　５００円玉をじっと見つめても、残念ながら増えなかった。
　しかし、みとは顔をカエルに向けて話しかける。

「あのね、お金はあんまりないけど、みとと遊んでくれる？」

　カエルたちは顔を見合わせて、少し話し合うとその提案を受け入れた。

「よかった！　わたしはみとっていうよ！　カエルさんたちのお名前は？」

　彼らもそれぞれ名乗ったが、あまり耳なじみのない名前ばかりが挙がる。
　普段住んでいる世界が違うから、それが名前にも表れているのかもしれない。
　それでも、みとはカエルたちの特徴から、誰が誰かを間違えずに認識できた。

　そうしてやってきたのは近くにあった公園。
　ブランコやすべり台、ジャングルジムや砂場など、様々な遊具や遊び場が用意されている。

　カエルたちもテンションがあがるようで、さっそく遊具に飛びつく。
　みともその輪に加わって一緒に遊ぶ。

　ジャングルジムをひとっとびで頂上に着いてしまうカエル。
　砂場では器用に穴を掘っているカエル。
　それぞれが思い思いに遊んでいる。
　みとは図鑑を眺めながら「あなたはジャンプが得意なのね！」と驚きの声をあげたり
　「穴を掘るのが得意なカエルさんだもんね！」と感心している。

　ひとしきり遊んで、みともカエルたちも満足した心地よい疲れを感じていた。
　みとはそんなカエルたちのほうを向くと何か言いたそうにもじもじしている。

「あのね、あのね、ぎゅーってしてもいい？」

　彼女はそう切り出した。

「カエルさんって、体がつめたいから、みとの体温でやけどしちゃって、いつもはいっぱいさわれないし……でも、こんなに大きいカエルさんに会うのは、はじめてなの」

　カエルたちはずっと遊んでいたみとの意思を受け入れた。
　みとは喜びの表情を浮かべると、カエルたちを抱きしめた。

　みともカエルたちも幸せそうな顔をしていた。

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