大蝦蟇さまの寝子島名酒紀行｜リアクション

大蝦蟇さまの寝子島名酒紀行

●おもてなし

　マリエッタ・ラシュリエは寝子島を散歩していた。
　これから何をしようかと考えていたところ、いきなり酔っ払いの巨大なカエルに絡まれてしまった。

「そこの娘、酒はどこじゃ？　酌だ、酌をせえ」
「え……？」
「あと何かうまいものはないか？」
「ええと……」

　一体何が起こっているのか。
　その混乱は聞こえてきたテオの声で解決した。

（テオの話によると酒さえ飲んでればそれでハッピーなカエルらしいが……なんだかな……）

　しかし放置するわけにもいかない。
　マリエッタはとりあえず酒屋で適当に酒を買いそろえる。
　吟醸酒に焼酎、ビールにウイスキー、それから紹興酒にワインにウォッカなどなど。

　それらを大蝦蟇にお酌しつつ、自分もちゃっかりご相伴にあずかる。

「うむ、うまい。やはり酒はうまいのぉ。あと何かうまいものも欲しい」

　大蝦蟇はそう言いながら、用意された酒をさらにあおる。

（たしかに、なにかつまみが欲しいところよね）

　そう思い、マリエッタは立ち上がると『ちょっと待っててね』と声をかけその場を去った。
　まずは軽く和え物や冷ややっこなどの突き出しを出す。大蝦蟇はそれを口にすると、満足そうな顔を浮かべる。

「何か食べたいものはありますか？」
「酒に合いそうなうまいものなら何でもいい」
「わかりました」

　大雑把ながら作る料理の方向性は見えてきた。さっそく調理に取り掛かる。
　彼女は研究に行き詰まると、自分で料理を作って食べることでストレスを解消している。
　もちろんお酒にあう料理は得意中の得意。

（おいしいお酒には美味しい料理がなくちゃ話にならないでしょ？）

　彼女は手際よく作業を進めて、いくつも料理を用意した。それらを大蝦蟇のもとへ運ぶ

「おお、これは美味そうだ」

　大蝦蟇は並べられた料理に強く関心を寄せる。
　春キャベツとあさりの酒蒸し、行者ニンニクの肉巻き天ぷら、タコの明太和え。
　ホタルイカと菜の花のペペロンチーノ風、新玉ねぎと春わかめのサラダ。

　どれも彩りが綺麗で、香りも立っている。大蝦蟇はまず酒蒸しに手を伸ばす。

「……うむ！　これはうまい！」

　さっぱりした味でありながら、しっかりと食材の風味が感じられる。
　期待を膨らませて別の料理を食べてはその美味さを堪能し、さらに酒が進む。
　食べて飲んでを繰り返し、気づけば用意した料理も酒もすっかり無くなってしまった。

「はー食った食った」

　大蝦蟇は満足した笑顔で一息ついている。これなら気持ちよく帰ってくれるだろう。
　マリエッタもここまで喜んで食べてもらえたことに、嬉しそうにほほ笑んだ。　

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