【星幽塔】あなたといっしょに星幽塔｜リアクション

【星幽塔】あなたといっしょに星幽塔

＞綾辻綾花と早川珪の場合

「あれ……？」
「なんかとてもメルヘンな場所に来たようだね」
　綾花はちょうど珪とのデートを楽しんでいる最中だった。道を曲がったと思った瞬間、二人そろって星幽塔の第十階層へとやってきてしまったらしい。
　珪は初めて見る星幽塔の光景を興味深そうに見渡している。よく見れば、彼の出で立ちはRPGに出てくるような吟遊詩人を思わせる恰好となっていた。
「綾辻さん、ここは図書館のようだね。けれど、神奈川県内にこのような……そうだな、ファンタジーな印象をうける場所はなかったように思うのだけど」
「実は……」
　綾花が事情を説明しようとした時、「すいません」と二人に呼びかける者がいた。それはエプロンを付けた、狐耳の少年である。
「お二人は冒険者様でしょうか？　今人手が足りないのです。申し訳ないのですが本の整理のお手伝いをお願いできますでしょうか？」
　冒険者という言葉が聞きなれない珪は不思議そうな顔をしていたが、綾花はその頼みごとを引き受ける事にした。

　第十階層は、『本の迷宮』である。
　本が好きな二人にとっては、ある意味天国かもしれない空間で……。珪は最初『星幽塔』という場所などの情報に少々驚いた様子であったが、元々寝子島は不思議な事が多々ある場所とも聞いている。故に、案外すんなりと分かってくれたようだ。
「それなら、僕の服が変わった事にも納得がいく。……しかし、この塔にはこんな夢のような場所があるなんて……！」
「このエリアだけでも読み終えるのにいったいどれだけかかのでしょう？」
　丁度伝記や各階層に伝わる言い伝えをまとめた本のエリアにいる二人は、てきぱきと本の整理を手伝いながらも興味をそそられていた。
「仕事が終わったら、ご自由にお読みください！」
　狐耳の少年が、にこやかに言う。この図書館の館長であるアステリズム、アストライア・スピリットから許可は貰っているとの事だ。二人は俄然やる気を出したようで、協力し合いながら図書館を巡っていった。

　二人並んで図書館の中を進んで行く。綾花は隣でどことなく楽しそうな珪の様子に柔らかい表情になっていた。
（本当に本が好きなんですね）
　本に囲まれた場所で、珪の目はどことなく普段以上にきらきらしているように見えた。だからだろうか、綾花自身も胸の中が暖かく感じている。
「楽しそうだね」
「えっ？！」
　不意に珪が笑いかけながら言う。綾花はふわりと頬を赤くしながらも彼に笑い返す。
「沢山の本に囲まれていますし……それに、珪さんもなんだか楽しそうですから」
「ふふっ、バレていたか」
　今度は珪が耳を少し赤くして照れてしまう。
　異世界の様々な本がそろう場所は、いつになく心を弾ませている事がお互いにバレバレであったようだ。
　ならなおさら頑張らねば、と二人はもう一度笑い合う。
　そんな調子で頑張っている間に、頼まれた分の本はきっちり元の位置へと戻っていた。
　二人の頑張りに、図書館の職員たちも目を輝かせる。
「ありがとうございました！　あとは我々だけで大丈夫ですので……」
「いえ、僕たちも役に立ててよかったですよ」
　珪が爽やかに返すその姿を、綾花は少し胸を弾ませて見つめていた。

　仕事を終え、二人並んで本を読む。
　同じ本を二人で読めば、自然と距離が近くなって。ふとした事で眼が合えば、自然と笑みが零れた。
（もう少し、こんな時間が続けばいいな）
　綾花はゆっくりと珪に肩を預ければ、彼はそっと自分の上着を綾花の肩へとかける。
「寒くないかい？」
「ありがとうございます」
　しばし見つめ合い、うっすらと頬を赤く染め照れたように笑う二人。
　どうやら読書時間は、まだ続きそうだ。

このページにイラストを設定する