【星幽塔】あなたといっしょに星幽塔｜リアクション

【星幽塔】あなたといっしょに星幽塔

＞月原想花と黒白滴

　想花はその日、突然星幽塔に飛ばされていた。
（今までにもこんな事はあったけど……）
　過去に星幽塔を訪れた時の事を振り返りながら横を見れば、滴がいる。彼女は初めてここを訪れたのか、不思議そうに辺りを見渡していた。
　耳をすませば水の音。振り返れば、無数のアーチがつらなる水路橋。想花の記憶が正しければ、第二階層である。
　滴はあたりを見渡しながら、
「うーん、見たことのない場所だけど……どこかなぁ～？」
　とアンニュイそうに首を傾げ、白と黒の髪を揺らす。
「そうだね。まずそこから説明しなくちゃいけないか」
　想花は小さく頷くと、簡単に星幽塔について話すことにしたが少々苦労する。
（上手く伝わるかな？　……というより、どう思うかな）
　ちょっとだけ心配になったが、彼女は「ふぅん」と少し眠そうな目で頷いた。多分少しは分かってくれたと思う事にした想花だった。

　よく見れば、二人ともRPGに出てくるような神官を思わせる服装をしていた。荷物には水着とか着替え等。想花は荷物から地図を取り出し、道を見つける。
「こっちの方に行ったら、たしか遺跡があったかな。水底にあるって」
「その風景、絵の題材にもいいかも～」
　滴は少しだけ眠そうな目を開いて笑う。
　彼女はある事が切欠で『日々の平穏に感謝しながら、面白おかしく生きていこう』と心に決めた。その事がきっかけか、水彩画を学んでいるらしい。
　元々滴はここに飛ばされる前、水彩画の題材を探して散歩していたらしい。もし描くのならば、見たいな、と想花はちょっとわくわくするのだった。
　他愛のない話をしながら二人で水底の遺跡を目指す。途中で水着に着替え水中へ向かう準備を整えるのだが、滴の水着姿は想花には少々眩しかった。
（うぅ、かわいい……）
　思わず赤面してしまう想花の様子を不思議そうに見つめる滴。待たせてしまっていると感じた想花は首を振り、彼女を手招き。想花は魔水の光の力を使い、大きな泡で自分達を包む。こうして水中でも呼吸ができるようにしたのだ。
　水の中へ進めば、ゆっくりと泡が水の中を進んで行く。
　傍らで、滴が息をのむ音が聞こえる。彼女の視線の先、遺跡なのだろう、幾つもの石の柱が見えた。よく見れば、奥の方にはかつての城の跡のような物を見える。
　水面越しに降り注ぐ光は柔らかく幻想的で。辺りを美しい青に染める。だが光の届かないところは徐々に暗くなり、そのコントラストが実に美しいのだ。澄んだ水の中、揺らめく水面の影が底に、白い砂に映る。二人の上にも降り注ぎ、滴と想花を淡い青へと染め上げる。
　滴はその中でアンニュイでありながらも、ちょっと楽し気に笑っているようで。淡い青の光の中にいると、まるで人魚のように見えた。
「綺麗……」
　想花は、思わず呟いてしまった。
　思わず出た言葉に耳まで赤くなる。
（な、なんてことを……！）
　だが滴は景色に夢中で聞こえていなかったらしい。彼女はシャボンが揺れ、近くを魚が通り過ぎるのを柔らかな眼差しで見つめていた。
「ありがとね～。ふふっ、なんか、冒険しているみたいで楽しいよ～」
「ううん、冒険だよ」
「そっか、冒険だね～」
　滴とこんな会話をするだけでも、鼓動が跳ねる。
（あぁ、そっか……）
　想花は、改めて自分が彼女に抱く気持ちを自覚した気がした。

このページにイラストを設定する