ンモ～っ♪　新春☆初夢フェア２０２１！　～鷹編～｜リアクション

ンモ～っ♪　新春☆初夢フェア２０２１！　～鷹編～

●死がふたりを分かつまで・２

　ふたたびキューブパズルの面が組み変わるようにぱたぱたとシーンが変わる。
　波の音。南国の澄んだ渚が目の前に広がる。

「みて紗月。青い空、青い海！　最高のハネームンだね」
　理緒が波打ち際ではしゃいでいる。
「待って、理緒ちゃん」
　私も素足を波に浸して追いかける。
　緑の森を背にした真っ白な砂浜は、私と理緒ちゃんだけのプライベートビーチだ。
　私はいつの間にか波の色に似たフレアのビキニを纏っていて、スタイル抜群の理緒ちゃんは白のチューブトップビキニ。おどけてモデルの仕事をするときみたいに腰に手を当てポーズを取る。
「こんな素敵な理緒ちゃんを誰も見ていないなんて勿体ないね」
「見せたいのは紗月だけだよ」
　恥ずかしいセリフを平然と言ってのけるものだから、私は立ち止まって麦わら帽子を深くかぶりなおす。
　そうすれば理緒ちゃんに火照った顔を見られずに済むんじゃないかな、って思ったからだ。
　波が寄せてくるぶしを濡らす。返す波が足の下の滑らかな砂が攫ってゆく。
　その感触が楽しくてそのまま立ち止まっていると、理緒ちゃんが急に振り返って抱き着いてきた。
「え、ふぁっ」
　突然のことに足がもつれて、理緒ちゃんに押し倒されるかたちで波打ち際にひっくり返る。
　気づけば視界は真っ青な空とくすくす笑いの理緒ちゃんだけになっていた。
「もう。危ないよ……」
「ごめんごめん。急に愛おしいなーって気持ちが湧き上がっちゃって、抱き着かずにはいられなかったの」
「だからって……ほら、髪も頬も砂まみれになってるし」
　私は理緒ちゃんの頬に触れ、ついた砂を拭う。
　ゆっくりと優しい瞳が近づいてくる。
「だめ……」
「だめじゃないよ」
「誰か見てるかも……」
「誰も見てない」
「でも……」
　戸惑う私に理緒ちゃんは困ったように笑みを向ける。
「……ハネムーンなんだよ？　こうする以外、することがあるとは思えないけど？」
　くちびるが触れ合う。
　ひたひたと背中を濡らす波の冷たさが、キスしている場所をより熱く感じさせる。
　目を開けると、砂浜に顔を出していた小さな蟹が、ひゅっと砂の中に引っ込むのが見えた。
　理緒ちゃんがキスする角度を変えた。
　ウェストのあたりを手のひらで撫でられる。
　くすぐったくて身を捩ると、逃げないでというように太腿で挟まれた。
「紗月の肌、ひやりとしてて気持ちいい」
「……ん」
　何と答えていいかわからない。理緒ちゃんの肌も心地いいとでも言えば良かっただろうか。濡れたところが指に張り付くようで、離せなくなる。
　私たちは長い長いキスをした。
　波に濡れるのも構わずに。
　頭の中に曲が流れる。
　ゆったりとした波のようなメロディは、大好きなドビュッシー。
　ピアニストになりたかった。
　けれど才能に恵まれなかったことに気付いて諦めた。
　あのときもしもピアノの道を諦めずにいたらどうなっていただろうと想像することがある。
　そして思うのだ。もしも音楽を選んでいたら、理緒ちゃんとともに歩む道は遠のいたかもしれない。もしかしたら神様は、私に理緒ちゃんという幸せをくれるために、敢えてピアニストの才を与えなかったのかもしれない……。
「こら」
　理緒ちゃんのふくれっつらが目に飛び込む。
「ハネムーンに、あたし以外のことを考えるの禁止」
　私は笑った。そう言ってくれる人がいることが嬉しかった。
　選ばなかった未来のことを考えるのはもうよそう。
　私は理緒ちゃんの身体を掻き抱く。
「いてくれてありがとう。幸せになろう――死がふたりを分かつまで」
「紗月……」
　私たちはキスをする。
　死がふたりを分かつまで。

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