桜花寮なんでもバスケット！｜リアクション

桜花寮なんでもバスケット！

☆入寮者

「ここが、今日からの私の家……」
　4月から2年生になる愛猫萌々子は、ドキドキしながら桜花寮の入り口をくぐりました。
　父を避け逃げるように寝子島に来て一年、何も連絡はないけれど今まで星ヶ丘寮の寮費や授業料は払ってもらっていました。
（でも頼りっぱなしの生活はもうやめます。ずっと逃げていたお父様と向き合わなければ）
　感謝はしています。けれど厳しい父は、萌々子の言葉に聞く耳を持ってくれませんでした。
　嫌ったり憎んだりしたいのではないわけではないけれど。
　萌々子が父に抱いていた感情は『怯え』でした。
　意思の疎通を諦めず、怯えずに話をしたい。
　そのためには全てではないにしても、アルバイトを始めて寮費ぐらいは自分で払えるようになりたい、と萌々子は思ったのです。
　非日常に憧れ、ののこという神様に会いたいという一心で父の反対を押し切って寝子高へ進学した萌々子は、今までの怯えるだけだった彼女から明らかに変貌を遂げていました。
（転寮についても保護者の許可証が必要でしたが、ちゃんとお父様のサインが送られてきましたから）
　至れりつくせりの星ヶ丘寮とは違い大変なこともあるでしょうが、心機一転、新しい場所で頑張ろう。
　そう心に誓っていました。

「よろしくお願いします」
　寮母さんに挨拶を済まし、部屋へ向かおうとした萌々子は、壁に貼られた部屋割り表に気づきました。
　2人部屋なのは知っていますが同居者の名前は聞いていなかったので、確認しようと自分の名前を探します。
「さて、相手の人は……笛吹さん！？」
　2度見した同居人の名前は、確かに『笛吹ぴりり』と書かれていました。
（私が内緒で結成した『ののこ様親衛隊』を不審者集団として追いかける風紀委員の人じゃないですか！）
　ののこ様親衛隊長として覆面をつけののこをモデルにした漫画も描いている萌々子は、相手が誰でも、親衛隊のことも漫画のことも秘密にするつもりでいましたが。
（これは何が何でも隠し通さなければ……）
　そう思いながら、部屋へ向かおうと後ろを振り返ったとき。
　すぐ後ろに、一生懸命背伸びをして部屋割り表を見ようとしている小柄なぴりりを発見しました。
「愛猫萌々子さん？」
　大きな目で見つめられ、内心焦りまくりながら平静を装って答えます。
「はい……笛吹さんですか？」
　わかりきっていることですが、知っていてはまずいかなとちょっと迷っている風に答えました。
「ええ、笛吹です。今日から同じ部屋ですね。よろしくお願いします」
　特に笑顔になるでもなく、まじめに挨拶してくるぴりり。
「よ、よろしくお願いしますね」
　ややひきつった笑顔で挨拶を返しつつ、今後予想される多難さを今は考えまいとする萌々子でした。

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