留年だけはご勘弁！　～追試編～｜リアクション

留年だけはご勘弁！　～追試編～

　春山小枝は追試の会場である寝子島高校の教室で席についた。黒崎俊介先生の説明を聞きながら、気合いを入れる。音楽と美術の追試は同じ部屋で行うらしい。
(苦いの嫌いだけど濃いコーヒーも飲んだし、追試は絶対がんばるもんね)
　そう決意したものの、瞼が重くなってきてしまう。
(ね…眠いけど、テストは解ける、だいじょうぶ)
　ペンを手に名前を書き、いざ追試！　……と思ったら、派手な大砲の音が辺りに響いた。
「ひっ」
　声が出てしまい、口を押さえた。
(へ……は？　えぇ！？　なんか始まったぁ)
　ミニミニな姿の相原先生と桐島先生が増殖して、色々な武器を用いて戦争を始めたのだ。
　教室は戦場……。他の生徒の肩で剣を交わらせているかと思えば、机の両端に陣取った二つの勢力が弓や鉄砲の撃ち合いをしている。
(あ)
　肩で大立回りをしていたアイハラ先生がキリシマ先生の剣を弾いたのだ。その動きがかなり格好良かった。
　と、その生徒が肩を手で払う。斜め前なので一瞬目が合う。その相手、莉鳥はため息混じりに頷いた。どうやら彼女も気づいているようだ。
　莉鳥はすぐに前へ視線を向ける。その時。
(あっ！？)
　小枝のテスト用紙の上でもまた、争いが始まっていた。
　中でも魔法使いアイハラ先生の攻撃は強烈で水の魔法、火の魔法を駆使している。キリシマ先生の自爆ドローンもヤバい。テスト用紙がピンチだ。
(これは……なんとかしないと！)
　追試を受けに来た生徒達が留年になってしまう。
　小枝は教室の端っこにクモの巣を見た。窓からの光で微かにわかる。
(あれだ)
　すぐさま、ろっこんが発動し、クモの姿になった。
(よーし、これで)
　眠っているように見える、自分の机へ。
「その魔法、待ったー！！」
　放たれた火球を飛ばした糸でくるんで、撃ち落とす。放たれた氷の魔法を糸でくるみ、床へ投げ捨てる。
　突然のクモ出現にアイハラ先生達がざわつく。
「皆、ここで争うのは止めて」
「か、かかれー！　押さえつけろー！」
　聞く耳持たないようだ。留年をかけた戦いを邪魔させるわけにはいかない。
　弓やら弾丸やらを避けつつ、その隙間に糸を飛ばす。
「なんだ、これは！？」
「うああっ」
　次々にぐるぐる巻きにして、机の上へ転がす。
「ふふ、ちょろいなぁ。……って、いたたたっ」
　離れたところから弓部隊が攻撃をしてきているようだ。糸を放つも離れているためか中々攻撃が当たらない。
「あーもうっ、誰か手伝ってー、今度教室で見かけても見逃すからー」
　と、一匹のハエが弓部隊の前を高速で飛び去った。
「あ」
　弓部隊アイハラ先生達が驚いて仰け反る。
「チャンス」
　攻撃が止んだので糸を投げる。纏めて拘束だ。
「よっしっ」
　天井に止まっていたハエはその様子を見た後、戸の隙間から教室を出て言ってしまった。
「ありがとー、ハエさーん！」
　中々クールなハエだった。
　そして、十分に捕虜が出来たところで教室全体に呼び掛ける。もちろん、小声で。
「アイハラ先生、キリシマ先生、今は大事な戦い(追試)の最中なので、争うのは止めて下さいっ。出ないと捕虜さん達がどうにかなっちゃいますよ！」
　ぴたりと戦争が止む。
　皆仲間思いなのか、互いに顔を見合わせる。
「はい、止め！　わかりましたかー？」
　こうして、小枝の活躍で戦争は中断された。
「うな！　テストの残り時間やばい」
　慌てて起きる。
　集中だ。
　そして。

　春山小枝、留年回避。

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