◆ホワイトな想い
　学校の帰りに鴻上 彰尋は七夜 あおいと一緒にマリンパラダイスに来ていた。今日はホワイトデー。バレンタインデーのお返しも兼ねて、二人は遊びに来ている。

「あっ、何か書いてあるね。ふむふむ？　『フリルの海』展示中！　白色のベタを写真に撮ると、白いミサンガブレゼント！　だって。楽しそうだね」
「これが噂のイベントだね。うん楽しそうだ。行ってみようか？」
「うんっ！　行ってみよ」
　早速行ってみようか。ということでマリンパラダイスに入場していく二人。その際入場料は彰尋が払う。あおいは遠慮したが、ホワイトデーのお返しだからさせてほしい。と笑って流し払ってしまう。そんな様子を見ると、あおいも遠慮しちゃうと悪いかな？　と思い、厚意に甘えることにした。

「わぁーっ。これがフリルの海。綺麗だねっ彰尋くんっ」
「そうだね。綺麗だな」
　あおいは大きな青色の瞳を輝かせ、フリルの海を眺めていく。色とりどりの海藻や光石の中を泳ぐ、無数の熱帯魚「ベタ」が混ざり合い、虹色の様な鮮やかさを展開させ、ドレスの様な裾を揺らし泳ぎ、フリルの海を創り上げていた。あおいはツインテールを揺らし夢中で眺めながら、彰尋を呼んでいく。彰尋はあおいの隣に並び、その美しさを共感し、共有していく。

「この中に白いベタが居るんだね。よーし、探してみよっか！　彰尋くんも一緒に探そ？」
　あおいは水槽に駆けていくと、屈みこんで振り返り、彰尋を呼んでいく。どうやら端の方から探していく作戦の様だ。やる気満々なあおいを見て、彰尋は微笑みながら追い掛け、一緒に並び白いベタを探していく。

（楽しそうに笑っているあおいさんは、やっぱり素敵だな）
　フリルの海を見上げながら、キラキラと瞳を輝かせているあおいを眺め、彰尋はそんなことを思う。こうして二人で並んでいると、二人だけの世界が出来た様で、彰尋の視界にはあおいだけしか映らなくなっていく。

「彰尋くん？」
　気が付くとあおいが彰尋の目の前で、きょとんとした表情を浮かべ此方を見下ろしていた。

「ごめん、ぼーっとしてた。どうかした？」
「うんっ、ねえねえあの子、白いベタじゃないかな？　上の方に泳いでる子」
　あおいが足のつま先を伸ばして背伸びをし、腕をぐーっと伸ばし、指を真っ直ぐにさせどこかを指している。あおいの指す指の先を見ると、確かに白いベタが泳いでいるのが見える。あおいの身長ではやや見え難い高さで、あおいより身長のある彰尋に確認してほしかったようだ。

「ほんとだね。白いベタが泳いでる。よく見つけたね」
「ほんと？　やった！　ね、ね、彰尋くん。私の代わりに写真撮ってほしいな」
　あおいは嬉しそうに彰尋に自分のスマホを差し出しお願いする。彰尋はよし。とあおいのスマホを受け取り、泳ぐ白いベタをフレームに捉えていく。その様子をあおいはわくわくと期待しながら見上げ眺めていた。そんな眼で見られたら、下手に映すわけにはいかない。彰尋は何度か不規則に動くベタに逃げられ、焦点がブレてしまったが、負けず嫌いな心で果敢にベタに挑戦し、遂に綺麗に写真に収めることに成功した。

「よしっ、なんとか上手く撮れたと思うよ。どうかな？」
「わぁーっ、ほんとに真っ白だね。すごい綺麗に撮れてるー！　ありがとう！　彰尋くん！」
　あおいは嬉しそうにスマホを抱えにっこりと微笑む。そんなあおいを見て彰尋は、より一層あおいへの想いを強めた。

　スタッフへ彰尋の映した写真を見せると、スタッフはすごく綺麗に撮れてますね！　おめでとうございます！　と称賛していた。彰尋は少し照れ恥ずかしながら、すごいね彰尋くん。と笑うあおいと一緒に、白いミサンガを受け取り、早速二人で着けてみることにした。

「ミサンガって、どうやって着けるのかな？」
「ん、こうやって端を交差させて、こんな感じで結ぶと解けづらいよ」
「あ、ほんとだ。しっかり結べたかも。えへへ、綺麗だねミサンガ」
　あおいは彰尋に結び方を教えてもらいながらミサンガを結んでいく。あおいに似合うと思いここへ来たが、彰尋はやっぱり。と思い微笑んだ。

「ミサンガ……切れたら願い事が叶うというのもあるみたいだよ」
「そうなんだ。彰尋くんはどんなお願い事したの？」
　えっ、と彰尋は言葉に詰まる。当たり前と言うように利き手に結んでいた彰尋。その位置に着ける願いは。恋愛成就。そのことをあおいは知らなかったらしい。あおいの利き手には、白いミサンガが着いていた。

「そうだね……願いが叶う前には、いつか教えたいな」
「えー、なんだか気になっちゃうなー。でも、お願い事、叶うといいね？」
　にっこりと微笑むあおいを見て、そう願ってくれるのかい？　と嬉しく思ってしまう。

「あおいさん。これ、バレンタインデーのお返し。受け取ってほしいな」
「わぁっ、ありがとう彰尋くん！　開けてみても良い？」
　うん。と彰尋は頷く。あおいが受け取った箱を開けてみると、中には可愛い瓶が入っていた。中には透き通るような青い金平糖が詰まっていた。

「わぁっ、綺麗。それにかわいい」
　可愛い瓶と金平糖の綺麗さに見惚れ、あおいは瓶を回して眺めていってしまう。そんな様子を見て彰尋は喜んでもらえて良かったと微笑む。

「いつもならお菓子を作るけど、今回はあおいさんの瞳を思い出してこれに決めたんだ」
「私の瞳？……わっ、そんな、恥ずかしいな……っ」

　まじまじと眺めていたあおいは恥ずかしくなってしまう。そんなあおいを見ると、恥ずかしいことを言ってしまったと、彰尋も照れてしまう。

　そんな事がありながら一日を楽しんだ二人。すっかり夜になっていた寝子島の光景は、イルミネーションが灯り、駅周辺には光のトンネルが出来ていた。様々な白い光がホワイトデーを彩っていく。そんな素敵な光景を眺めるため、最後に二人は観覧車に乗ることにした。

「綺麗だね。あっ、見て見てあそこ、猫が寄り添ってるよ。かわいいー！」
　観覧車の中であおいが楽しそうに指差す方向を見れば、光のトンネルの真ん中で、しっぽを交じり合わせ、ハートを描いている2匹の猫のイルミネーションが煌めいていた。その光景を眺め、彰尋は自分のミサンガと、あおいのミサンガを見つめる。

　いつかはあんな風に。そう思い、彰尋は素敵な光景を眺め微笑むあおいと共に、微笑んでいた。