「ねこのしま」にて｜リアクション

「ねこのしま」にて

　幸次は壁の時計に目を向けた。猫の絵で飾られた時計だ。既製品ではなく手作りらしい。立て看板や店のエプロンと同じ人の手によると思われるポップな猫イラストだった。
　そろそろかな。
　あまり時間にうるさい店ではないようだが、おいとましたほうがいいだろう。
「万条君帰るの？」
　オフィスから冱子が出てきた。なるこという店員は戻ってこないままなので、やはり対応は彼女一人だ。手にペンを持っている。右手にはカレンダーくらいの紙。
　あっ、と幸次は声を上げてしまった。
　手書きのポスターだ。描きかけの猫のイラストは見まちがいようがない。
「猫たちのイラスト、鈴木さんが描いていたんですか！」
「そうだけど」
「とても上手ですよね」
「そんな、全然よ。素人の我流だし」
　冱子は気恥ずかしそうな声を出す。表情も、猫をなでているときのように緩んでいた。
　とんでもないと幸次は熱をこめて言った。
「俺、鈴木さんの描く猫、好きです！」
　恥ずかしいよ、と冱子は頬を染める。
「でも……ありがとう」
　ところで、と幸次は言った。
「うちの猫に」
「ああ、花遊ちゃん」
　覚えていてくれたようだ。
「はい。花遊へのお土産に猫用のおもちゃを買って帰ろうと思います」
　カフェにいる猫たちを見てたら急に会いたくなってきたんで、と言う幸次もはにかんだような表情だ。
　爪みがき＆猫じゃらしという、一人二役（？）なグッズを購入した。これにも冱子のイラストが入っている。グレーの猫がこたつの天板で丸くなっているという情景だ。
　花遊はこれを見て、どんな反応をするだろう。
　警戒しいしい匂いをかぐかもしれない。
　でも、とびついて両手でいじりだすかもしれないな。

　レジのところまで戻って料金を払う。
「今度は猫が好きな友達も呼んでみます。今の俺にできるのはこの保護猫カフェのことを広く知ってもらうことだと思うから」
「ありがとう。お願いね」
　もう冱子にとっつきにくい雰囲気はなかった。人見知りの猫がようやく慣れて、さわるのを許してくれたときのように。
「じゃあ」
「またのご来店をお待ちしております」
　マニュアル口調だけどこれは、心からそう言っているのだとわかる。
　冱子がカフェに続くドアを開けた。
　シャムがひょいと首をもたげ、キジトラが「帰るのか？」という顔をして幸次を見た。
　母さんが一生懸命探して考えて花遊を迎えたみたいに――。
　幸次は願う。
　あの子たちにも、新しい家族が見つかってほしいな。

　――「ねこのしま」にて　了

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あとがき

担当マスター：桂木京介
ファンレターはマスターページから！

　桂木京介です。
　万条幸次様、改めてリクエストありがとうございました！
　この話を描くことができて光栄です。
　
　せっかくのプライベートシナリオですので、特典として、内容についてはコメント欄で（文字数多めに！）話したいと思います。

　それではまた、新たなシナリオで会いましょう！
　桂木京介でした。

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