ショーウィンドウのマネキンはかろやかな春着、カレンダーもチューリップのフォトグラフで、雑誌の誌面もポップに桃色めいているのだけど、それでもいまだ三月上旬、外に出たらばまだまだ寒い。チェスターコートは当分続投だ。
万条 幸次はポケットに手を入れたまま、ひやっと吹き付けてきた風に首をすくめた。春一番と呼ぶにはいささかきつすぎる。冬がまとうレースのドレスの、尾のところが撫でていったように感じた。
あった。立て看板。
ちょこんと座った猫のイラスト、書かれた名称は『ねこのしま』、保護猫カフェだ。『すぐそこ』というメッセージが添えられていた。
ただの猫カフェではなく保護猫カフェ、読んで字のごとく保護された猫が暮らすカフェなのだ。
店の猫たちには過去がある。野良だった猫、捨てられていた猫、なんらかの理由で旧飼い主が手放した猫など、あまり好もしくないものがほとんどだ。
保護された時点では瀕死だった猫もいる。虐待を受けて心身に傷を負った猫も。
店のつくりは一般的な猫カフェと大差はない。床暖のきいた大きな部屋に、ソファやキャットタワーが置いてあり来客者は猫をなでたり、ちょっとしたオモチャで遊んだり、眠っている姿を観察したりする。
料金は時間制、コーヒーか紅茶一杯がサービスでつく。毎日店内で手作りしているというパイやケーキが、ささやかな料金で提供されてもいる。
だからただの客として店を訪れ、猫たちとくつろぎのひとときをすごしてもいい。
けれども店が目的とするものは保護猫の譲渡だ。店内の猫たちにとって『ねこのしま』は仮のすまいにすぎない。すべての猫に新しい家を見つけ、殺処分という非情な、けれど確実に存在する現実をなくすことが理想なのだ。
だから定期的に寝子島の内外で出張譲渡会を開催しているし、インターネット等で積極的な情報発信も行っているという。
先日、幸次はアルバイトで出張譲渡会の手伝いをした。力仕事もありなにより屋外だったので寒く、決して楽なバイトではなかったものの、たくさんの思い出を得た印象的な一日だった。
今日、これから幸次は客として店を訪れる予定だ。
店にいる猫たちがどんな子なのか見たかった。
あと、ねこのしま代表の
鈴木さんの話ももう少し聞いてみたいなと思ったから。
事前に電話した。電話に出たのはまさにその鈴木さんだった。本日うかがいたいと言ったところ彼女はとくに喜色を示すでもなく「今日は空いているのでいつでもどうぞ」と簡潔にこたえた。
接客業としては無愛想このうえないけれど、それがむしろあの人らしいという気もした。
めざす場所につく。階段を降りて地下の、入り口の呼び鈴に指をのせる。
押すよりも先にドアが開いた。
猫の鳴き声が聞こえる。
いらっしゃい、と呼びかけてくれるかのように。
桂木京介です。
万条 幸次様、リクエストありがとうございました!
遅くなり申し訳ありません。プライベートシナリオをお届けします。
シナリオ概要
保護猫カフェ『ねこのしま』を舞台に、代表者の鈴木や店員たち(総勢十人くらいいるそうですが、今日は他に二人だけです)、そしてもちろん、さまざまな猫たちとすごします。
『ねこのしま』について
店はもともと企業の事務所だったところを改装したもので、パーディションで区切られた店内にはキャットタワーやソファ、ただごろごろできるだけの空間が用意されています。
床暖房がきいており暖かいです。猫は十二匹在籍しているのですが、常にすべてが店に出ているわけではなく交代制をとっています。
NPCについて
鈴木 冱子(すずき・さえこ)
保護猫カフェ『ねこのしま』の代表です。32歳女性。
本土にあるセンターと連携して保護猫の譲渡に積極的に取り組んでいます。
化粧っ気はなく黒髪を背中のところで束ねており、ヨガの先生みたいに均整の取れた体つきをしています。目つきが鋭いため怖い印象を与えがちですが、猫譲渡の責任者という立場を重く自覚しているためです。
今日は他にふたり店員がいますが、どちらも以前、アルバイトのときに顔見知りになった人たちです。
それでは、次はリアクションで会いましょう!
アクションを楽しみにお待ちしております。桂木京介でした。