【期末テスト】満点？留年？？早春、四日間の死線＜物語編＞｜リアクション

【期末テスト】満点？留年？？早春、四日間の死線＜物語編＞

〇猫鳴館の勉強会

　いつも眠そうな、なんとなくやる気なさそうな顔をしている北里雅樹。
　けれど今回彼は、やる気を出して猫鳴館で期末テストの勉強会に出席していた。
　勉強する側ではなく、講師として。
「色々世話になって来たからな、最後のご奉公だ」　
　自分の大学入試（京大理学部）の結果は既に出ている。
　合格だった。
　向こうでのアパート探しなど新生活へ向けた準備もしなければならないが、猫鳴館には随分と世話になったので、後輩たちの面倒を見ようと考えたのだ。

　熱心に取り組むもの、飽きて諦めかけている者。
　さまざまな後輩たちの姿を見ながら、雅樹は思い出す。
（親父と不仲で、そのせいで実家に住みにくかったから、進学と同時に猫鳴館へ転がり込んだんだっけ）
　猫鳴館は３０年前に桜花寮ができた時、廃寮と取り壊しが決定した寮だ。
　先輩たちの学校側との激しい闘争の結果取り壊しは回避されたものの、風紀委員が強気に出て廃寮になりそうだったこともあるし、オンボロだから天候やネズミやＧで物理的にもしょっちゅう被害が出てひやひやしたが、なんとか卒業までもってくれた。
（正直、この環境の悪さに辟易としたが、返ってしぶとさのようなものを培うことができたかもしれないな）

　雅樹は得意な理数系の科目で、学年ごと、先生ごとのテストの傾向とその対策を過去問から推測した。
　テストにはこういう傾向の問題が頻出する、この先生はよくひっかけ問題を出すから、こういう問題が出てきたらこう回答するのがいい、と言ったことを教える。
「ちょっと休憩にしようか」
　お茶を飲みながら、一息つく。
　休憩中、ふと元カノの椎井莉鳥の顔が浮かんだ。
（あいつ、今ごろ試験勉強してるかな）
　２年生の莉鳥は、もともとは雅樹と同じ学年だった。
　理数系だけなら優秀だから、大丈夫とは思うが。
（……それにしてもあいつ、なんであの時いきなり……）
　初詣で見た泣き顔が浮かぶ。
（って、なんであいつのこと思い出すんだ？）
　あくまで元カノ。もう別れたはずなのに。

「先輩、すみません、ここ教えてもらえますか」
　声をかけられ、ハッとして我に返った。
　後輩が質問しに来たのだ。
「……ああ、ここはね」
　雅樹は元カノのことを忘れるべく、後輩の質問に集中するのだった。

（もうすぐ卒業か……）
　大変だった受験勉強も、猫鳴館での暮らしも、終わってしまえばどこか懐かしい。
　そんな風に、莉鳥とのこともいつか笑える思い出になるのだろうか。
　

このページにイラストを設定する