寒い日こそ、ボディタッチ日和｜リアクション

寒い日こそ、ボディタッチ日和

「ええい冗談じゃない！」

　滝原レオンはドレス姿のまま駆け出した。
　女装ライフを満喫してご機嫌だったのはさっきまでの話。偶然出会った狗条光が突然ボディタッチしたいなどと捲し立てて迫ってくるという異常事態を前に、貞操の危機を感じざるを得ない！　しかも光は女装したレオンのことを『滝川怜』という女子だと思い込んで、自分がライバル認定している男と同一人物だとは露ほども知らぬから余計にたちが悪いと来た。
「何が悲しくて男と、しかもあんな変態と触れ合わなきゃいけねえんだ！」
　レオンに対しては一方的に敵意をぶつけてくるくせに、怜に対しては一方的に熱い恋心をぶつけてくる光にはほとほと参る。しかも今日は、いつも以上にヤバい感じに目がハートになっているではないか。
「あれか、またいつものアレ（神魂）か！　ほんっとにロクなことしねえな神魂！」
　怜は小声で毒づく。
「怜ちゃん！　どうして逃げるんだ！　すりすりはむはむむにむしたいんだよ～！」
　光は必死の形相で追ってくる。あんなのには関わらないのが吉に決まっている！
「こっち来んn……来ないでぇぇぇ！！！」
　本気で怖かったので、怜は全力ダッシュで逃走し、物陰でドレスを脱ぎ捨てた。
「はあ、はあ……。これで万が一見つかっても大丈夫だろ……」
　レオンに戻って息を整えていると、追って来た光がその場で急ブレーキ！
（やべ、また見つかった！）
「レオン！？　なんでここに……いや、それよりドレス姿の女の子……怜ちゃんを見なかったか！」
「い、いや。見てないな」
　誤魔化しながら自分に言い聞かせる。
　落ち着け俺。あのバカだってさすがに男相手にボディタッチを要求はしてこないだろう。
　と、思ったのも束の間。
「見失ったか……しかしテメェに会えるとはな。ここで会ったが百年目！
　テメェに触れたいんだ、抱き締めたいんだ。男にしとくにはもったいないその細い肩を抱き寄せて俺の腕の中へ収めたい。ずっとずっといつまでもそうしていたい。離れたくない、君と離れていることにはもう耐えられない。隙間もないほどぴったりとくっついていたいんだ。そうして君の首筋あたりをすりすりはむはむしたいんだ。触れたいんだ、ボディタッチしたいんだ……！」
「……ん？」
　レオンの目が点になる。
　なんだか様子がおかしい……。
　怜に対して言ったことと、内容がほぼ同じだ！？
「おい待て落ち着け！　お前男！　俺も男！　ていうかお前俺が嫌いなんだろ！？　気色悪いこと言ってないでさっさとどっか……待て待て待てなんでにじり寄ってくるんだ離れろこっち来んなあっち行け来るな来るな来るな来るなぁぁぁ！！！」
　レオンはしどろもどろに叫びながら光から逃れるべく走り出した。
　男の姿で男に対して貞操の危機だなんて冗談じゃない！
「勘弁してくれぇぇぇ！！！！」
「待て、待ってくれ！　レオンーーーーーー！！」
「待つかーーーー！！！」
　逃走しながら考える。
（神魂の影響なら、終わるのか？
　明日になれば光は俺にボディタッチしたくなったことを忘れるのか？）
　わからない。そうあってほしいと願う！

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