あの日あのとき、オープンキャンパス｜リアクション

あの日あのとき、オープンキャンパス

　風が冷たくなってきた。
「じゃあ、そろそろ行きます」
　名残は惜しいが、もう戻る時間だと時子は理解していた。
「受験がんばってね、時子ちゃん」
　食事後あたりからごく自然に、芽衣子は時子を名前で呼んでいる。芽衣子につられたのか、
「時子さ……あ、いえ、御巫さん、いつかまた、縁があれば」
　うっかり名前呼びしかけて、尚輝はひと目でそれとわかるくらいしどろもどろになってしまった。
　ふふ、と笑って時子は手を差し出した。
「最後に握手してもらっていいですか」

　別れて一度振り返ったとき、時子は自分の部屋に戻っていることに気がついた。
　今がいつなのか、調べる必要はないだろう。
　けれど旅立つ前と今とでは、異なっているものがひとつだけある。
　時子のなかに生まれた道標だ。
　

　
　――『あの日あのとき、オープンキャンパス』　了

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