タクシーの行き先｜リアクション

タクシーの行き先

　父の名代としてある洋画家の展覧会に行った帰り。見応えのある作品ばかりだったが、慣れない場所だったので軽い疲労感が。
　八神修預けていたロッカーから荷物を取り、タクシーへと向かう。
「自宅まで」
　住所を告げると、タクシーは出発した。走り出してすぐ、疲れから眠ってしまったのだが、ふと目を覚まして窓の外を見ると、
「！」
　氷の花が咲く、凍てつく大地が広がっていた。
　冷気が漂い、ダイヤモンドダストが舞う。やけに白い太陽の光が眩しい。
　修は目を見開いた。
「これは」
「アイスノー大草原ですね。咲き誇る花は人間が触れると崩れてしまうほど、もろいのです」
　運転手の説明に色々と納得する。こういう類の現象は寝子島で慣れてしまっている。
「運転手さんは……よくここを通るのですか？」
「ええ、まぁ、いつものルートですよ」
　どうやら迷いこんだわけではないらしい。
「ほら、あそこにアイスフラワーラビットが」
　運転手が指で示した先に氷の体を持つうさぎが見えた。目だけが赤い、神秘的な姿をしている。
「珍しい生き物、ですか？」
「この草原にはたくさんいますよ]
　修はスマホを取り出した。
「おや、記念撮影ですか？」
　そう言って、運転手は車を停めてくれた。
「恐れ入ります」
　ズーム機能を使いつつ、画面に透き通ったウサギの姿を映す。ウサギは修に気づいたらしく、動きを止める。そして何故か寝転がり、ポーズを取り始める。
「……？」
「撮られるのが好きだからね、アイスフラワーラビットは」
「それは、珍しいですね」
　野生生物全開なのだが、やけに身近に感じる。ウサギの要望通り何枚か撮り終え、タクシーが出発した。
「おもしろい場所ですね。興味深い」
「それはそれは。おっと失礼、少し潜りますよ」
　運転手が言って、タクシーが氷の穴から深海へ。深い海、海面に張る厚い氷の向こうに、微かに太陽の光が見える。彼の言う通り、すぐに氷の上へ戻った。
「お、丁度いい」
　そう言ってタクシーか停まったのは湯気が立ち上る池のような水溜めの縁だった。
「知る人ぞ知る、名湯なのですよ」
　どうやら温泉らしい。反対側にもう一台タクシーが停まっているのが見えた。
「あれ、修くん？」
　タクシーを降りた修ははっとして温泉を見やる。お湯から立ち上がって手を降っているのは、
「あおい？」
　ブラウンの湯着姿のあおいだった。温泉用の服、湯着。ワンピースタイプのそれは中々可愛らしいデザインだ。
「修君もタクシーに乗ったの？」
　同じ境遇らしい。
「ご友人ですか？　よろしければ二人でどうぞ」
　修が渡された湯着は甚平タイプだった。
　運転手に礼をいって温泉に浸かる。
「はぁ～。気持ちいいね」
「ああ、最高だ」
　見上げた空にはダイヤモンドダストが舞っている。
　その後、二人は無事、寝子島に帰宅した。

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