楓は吹き荒れる疾風をひらりと避け、舞う翼を避け一撃を見舞う。
「スピカ君！！」
　彼の視線の先。ナホエルに立ち向かるスピカに、凜太郎が篠笛で『烈風の早弾き』（攻撃力を上げて、1度の攻撃回数を増やす支援魔法）を奏でて支援する。彼の風に押され、スピカは華麗で過激な連撃も激しさを増す！『イグニッションハート』のケージがある程度溜まった状態で『ボルケーノクロー』を乗せ、ナホエルの肌を紅蓮の炎が焼いていく。
（……炎が、風を受けて、より強く燃え上がる！）
　もう一撃見舞おうとした瞬間、白い翼が視界を覆う。気付いたとき、スピカは高々と吹き飛ばされていた。
（なっ？！）
　駆けだしていた楓とすれ違う、スピカ。止まりかけた楓にスピカは「攻めて！」と叫ぶ。心の中で謝る楓は、思いっきり刀で切り付けるも見えない壁に阻まれる。だが、後方から着ぐるみさんが強襲！『発気揚々』で運気を、『旋風圏』で回避率を上げてからの……『侵掠如火』！　棍の連続攻撃をお見舞いだ！

（‐ㅅ‐)＜攻めて攻めまくるだけ。

　前衛が粘ることでわずかな間全体攻撃が止む。疾風が吹いてスピカの背中に翼が生える。夏夜による『翼の応援歌』だ。
（ケージ、貯めなおそう……）
　軽い音と共に石柱に降り立つスピカだが、その体はボロボロだ。降り注ぐ矢の所為で後衛側も地味にダメージが蓄積している。
「スピカ君、大丈夫か？」
　凜太郎が駆け寄り、声をかけるとスピカは「まだいける」と息を切らせながら言う。だが、治癒士たちは前衛組の回復で手いっぱいだ。
「！　今そっちに向かいますっ！」
　獅百合が状況に気付き、駆けだそうとするも夏夜は止める。
「治癒士は前衛組の治癒に専念して。まだ大丈夫」
　同時にスピカの足元にクリーム色の稲光。わずかがゴロゴロという音はまるで猫が喉を鳴らすよう。その音色に、のHPが徐々に回復していく。夏夜が積んでいた魔曲の一つ、雷属性の『癒しの猫の歌』には味方単体にＨＰ自動回復効果付与の力があった。
「今のうちに治癒して！」
　夏朝がブロックゴーレムに強力な一撃を与えれば、一気に５個のブロックがナホエルへと発射される。と、同時に向く視線。ナホエルの指が光の矢を呼び寄せる。
「おーいっ！　こっちこっち～！」
　絶妙なタイミングで瑠樹が『ゆる小人のマント』をひらりさせながら手を振る。『こっちを向いて！』を発動させ、ヘイトを向ける。光の矢は高速で瑠樹へと突き刺されば、その身体をしびれさせる。
「Oh！　【麻痺】ですねっ！　Cureしますっ！」
　すかさずトワが回復させ、周囲を見渡す。HPの消耗は予想以上に大きくはない。だが、時折起こる個人攻撃が確実に狙われた者たちのHPをごっそり消費させている。
　獅百合もまた、傷ついても攻撃の手をやめない前衛組の為にReiと手分けして治療にあたる。が、３人の治癒士は先ほど同様、前衛組の治癒で手いっぱいだ。
　稲光を纏ったスピカが、再び『イグニッションハート』で青白い炎を纏う。勢いのまま拳をふるえば、展開されたみえない壁すらも粉砕する一撃になり、突貫。凜太郎の添付した『追い風の祝福』にも背中を押されナホエルを怯ませる。
（手を休めちゃダメ。私達は、１４人しかいないんだから……！）
　スピカに続け、とばかりに碧南がレイピアで果敢に攻める。志桜里がおとりとなって矢を交わし、舞うように翻弄する。敏捷性特化型ビルドの２人は戦闘スタイルこそ違うものの、その素早さを武器として立ち向かう。
「重戦士といえど当たる限りHPは擦り切れていきます! 敵の手番を無にする機の多い軽戦士の方から使い倒してくださいなっ！！」
　次々に飛んでくる矢を切り払い、交わし、暴風に負けず踊る志桜里。ちらりと見れば重騎士の二人もまた矢を払い、後衛を守っている。
　着ぐるみさんは相変わらず読めない軌道で動く。おまけに同じように動くマスコットもいる。思わず見てしまうが、今はそれどころではない。
　前衛組が張り付くように攻撃を繰り出すのを、ナホエルは涼しい顔をして翼で払う。それでも舞い上がった真白が落下を使い雷を纏った掌で天堕掌を打ち込む！
「そこっ！」
　ナホエルの身が揺らぐ。隙をつき脳天へと叩きこまれた掌底に、膝をつきそうになる。
（手ごたえ、あり？）
　真白は石柱を飛び跳ねて下がるも、突風に煽られて足を滑らせる。そこにあったのは、夏朝のブロックゴーレムが残したブロック！　だが色が薄くなっている！！
（間に合って……っ？！）
　手を伸ばしとらえた瞬間、ブロックが消滅し真白は温泉へと派手な飛沫を立てて落ちる。絡みつくような感触が肌を通り越して骨を震わせ、真白の身体が戦意を喪失させる。
（なんか、このまま浸かっていたくなっちゃうなぁ……）
　温泉にはどうやら【虚脱】のBSが添付される効果があるようだ。その様子を見ていた着ぐるみさんはなにか閃いたようだが……それどころではない。
「！　しっかりしてください！！」
　獅百合がBS解除と治癒を施すスキル『黒羅刹の鼓舞』を発動。それにより真白は我に返るも濡れて張り付いた衣服によりなんとも言い難い蠱惑的な魅力が放たれた。

※この温泉に落ちた者は、しばらくの間仲間を【魅了】してしまうのです
　（ただし戦闘に支障はありません）

「これでどうにか……！」
　夏夜も気付いて『翼の応援歌』で翼を与え、上昇を促す。
　だが、炎の矢をまき散らしながらもそれを見ていたナホエルは、そっと目を細める。

　――やはり、足場を作ったり虚空をつかって戦うモノは厄介ですね。

　瞬時に夏夜へと向けられる茶褐色の矢。瑠樹は冷静に判断し、夏夜の前へと入り込んだ。とても短い間だけ素早さを大いに向上させ、仲間を守るスキル『盾になるから』を発動させたらしい。少年は夏夜を下がらせて代償として硬直し、同時に矢が頬を掠め、石柱の根元へ刺されば地響きが起こる。