ハッピーニューナイトメア！｜リアクション

ハッピーニューナイトメア！

●●●最終決戦の火蓋●●●

「あなたで最後です。フィールドもそこそこ小さくなっていますし、終わりにしませんか？」
「そうだね。でも、僕も負けるわけにはいかないから」
「分かります、その気持ち。けど、仕方のないことですから」

　柔和な笑顔の志桜里、それに警戒を強めて強張った顔をしている夏朝。
　二人の邂逅が106つの鐘の後、空は既に夕暮れに染まり乾いた風が二人の間を駆け抜ける。
　揺れる志桜里の衣服は既にボロボロであり、手傷も負っているような風貌。
　一方、夏朝は積極的に戦闘をしていなかったこともあり、それほど汚れていなかった。

「……どういうこと？」
「あなたは負ける、ということです！」

　夏朝の疑問に、丁寧に応えながらも電光石火の如き速さで間合いを詰める志桜里。
　志桜里が突き出した薙刀に反応が遅れたものの、使い込まれた籠手と皮鎧で事なきを得た夏朝。
　こんなこともあろうかと、可能な限り武器と防具を装備していた夏朝だから初撃は防げた。

「はぁあ！」
「んぐっ…！」

　だが、志桜里の放った攻撃は薙刀だけでなく、その次の腹部への拳もあったのだ。
　夏朝はモロにその攻撃をくらい、皮鎧があったにも拘らず身体へのダメージが確認された。
　その上吹き飛ばされ、夏朝は茂みの中に消えていった。

「相打ちですか」

　もし観客が居れば何のことか分からなかっただろう。
　志桜里の拳は地面にめり込んでおり、それだけの威力を持っているように見える。
　しかし拳、正確には志桜里の指抜きグローブにはねこシールが貼られ、フツウより重くなっている。
　ケホケホと咳をしながら茂みの中から出てきた夏朝の質量を操るろっこん【重く軽く】の能力である。
　浅くはない志桜里の一撃。それでも夏朝が立ち上がるのは信念があるからだ。

「僕はこの召喚の原因を突き止めなきゃ…っ！」

　そう言った夏朝から志桜里に向けて複数の武器が放たれた。
　どれも風船のように漂っているかのような頼りなさではあったが、そのまま受ける愚は犯さない志桜里。
　指ぬきグローブのねこシールを剥がし、自由になったその身で浮遊物を避けながら距離を詰める。
　そのうちの一つに何かが飛来し、浮遊していた短剣にぶつかると急速落下を始めた。

「ッ！」

　もし光に返した人数のランキングが発表されていれば間違いなく上位にいる志桜里。
　その戦闘経験からか、危機を察知し横転することで直撃を避けることができた。
　即座に体勢を整えて夏朝を見るも、金の弾丸を手に持っているのが見えた。

「ごめんね」

　弾く様に金の弾丸を志桜里に向けて放つ夏朝には悲哀の表情が浮かぶ。
　倒したくて倒しているわけではない、原因を突き止めるのに必要なだけ、そう割り切っても辛いものだ。
　それに対し、志桜里はほほえみを返し、むしろ金の弾丸へと向かっていく。

「こちらのセリフですわ」

　パキンッ、と志桜里の持っていた不思議な宝玉が割れる音がし、反応が遅れた夏朝との距離がゼロになる。
　割れる音に、志桜里の表情に、気付くのが遅れ、かつ驚きで動けなかったのが原因。
　走馬灯のように流れる直前の動きを反芻させながら再び吹き飛ばされ、背中が木に激突する夏朝。
　皮鎧が腹をえぐるようにへこみ、手足の感覚はほとんど無くなっていた。

「終わりです」
「ぐぁ…っ！」

　容赦なくもう一撃加える志桜里はこれまでの戦闘で金の弾丸を含む主要武器を使ってしまった。
　けれど志桜里には相手を小さくすることのできるろっこんを持っている上、バトルセンスも大胆不敵。
　夏朝の体に志桜里の拳が3秒触れ、夏朝の姿を小さくしていく、はずだった。

「！？」

　志桜里の体がふわりと浮き、拳が離れてしまう。
　すぐに原因として思い浮かんだねこシールを探し、足元に貼られていたそれを取ろうとして。

ゴーン

　銃声と鐘の音が夕暮れの森に響き渡った。

「ぐ…っ、はあ。なんとかなった、かな」

　夏朝は荒い息をしつつ、ポケットのごく小型の拳銃を野に放つ。
　志桜里を光に帰したのは拳銃の力、志桜里の体を浮かせたのは夏朝のろっこん【重く軽く】の進化能力だ。
　ねこシールを射出できるその能力で、志桜里の体を目標にし、志桜里の体を極端に軽くすることに成功。
　ポケットに忍ばせておいた、小型の拳銃で浮かんだ志桜里に致命傷を与えることができた。

「あとは、首謀者を…」

　夏朝は震える手足に力を籠め、ようやっと立ち上がり、一歩進む。
　目的達成のスタートラインに立ったに過ぎない。
　この空間を作り出したモノを、フツウを壊すモノを、夏朝は許すことはない。

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