みんなでつくろう！いろんな授業！｜リアクション

みんなでつくろう！いろんな授業！

●猫と猫好きの時間

　恵御納夏朝は休日に寝子島高校へやってきた。
　今日は『みんなでつくろう！　いろんな授業！』というイベントが行われる。普段は高校生として授業を受ける教室で、授業を行う側になる。
　それはどこか不思議で、とても楽しみでもあった。夏朝は教室にやってくると授業の準備を始める。

　夏朝の行う授業は『みんなで猫さんの事を学ぼう！』というタイトルで、校舎入り口の掲示板に書かれている。

（猫さんの性質やかわいさから、なでなでの仕方や抱っこの仕方、猫さんが楽しんでくれるおもちゃの作り方……寝子島の大まかな猫さん事情とか……色んな事を教えたり……できたらいいな）

　猫に関する本や、自分の知識・経験を伝えるためにまとめたノートを眺めながら、授業のことを考える。

（生徒さんの中には僕より詳しい人もいるかもだけど、いろんな意見は聞いてみたい。欲を言えば、本物の猫さんを連れてきたかったな……）

　だんだん教室に人が増えてきて、いよいよ授業の開始時間になった。

「今日はよろしくお願いします」

　生徒たちに軽く頭を下げる。お願いします、と元気な声がいくつも返ってきた。
　授業が始まると、生徒たちは夏朝の話に耳を傾ける。みんな真剣に聞いているようだ。

「えっと、ですので……」

　授業中の先生を思い出しながら、見よう見まねで授業をする夏朝。話したいことは色々あるものの、慣れないことで少し緊張している。それに授業時間という制限もある。慌てないように意識するほど、焦りが募る。
　そのときだった。

「ニャー」
「え？　猫さん？」

　不意に、猫が何匹か教室に入ってきた。生徒たちも動揺している。しかし猫たちは逃げる様子もなく、教室の一角で寛ぎ始めた。
　ここは猫が好きな人ばかり集まっているので、偶然の来訪者に関心が集中する。
　夏朝はそっと猫たちに近づくと、屈んで目線を合わせた。

「僕や生徒さんたちが触ってもいいかな？」
「にゃ？」
「あとで猫用おやつあげるから……ダメ？」
「にゃ～」

　小声で猫たちにだけ聞こえるように交渉する。
　条件に納得したのか、すっと立ち上がると生徒たちのほうへ歩き出した。
　生徒の１人がおそるおそる手を伸ばして撫でてみる。猫は逃げることなく、その手に身を預けている。

「せっかくなので、猫さんたちと触れ合ってみましょう」

　夏朝はそう生徒たちを促した。
　猫とじゃれあう様子は授業と呼べないかもしれない。でもこの授業の内容は『みんなで猫さんの事を学ぼう！』なのでこれもりっぱな授業である。

　そこからはすっかり『猫さん大好きトーク』で盛り上がる。
　教室にやってきた猫たちだけでなく、みんなが飼っている猫たちの話題もいっぱいだ。

　夏朝も寝子島の猫たちの愛らしさなどを話したり、聞いてみる。

（皆が飼い猫さんや地域猫さん等の魅力を沢山語ってくれてる……ありがたいし、羨ましい）

　夏朝はそのきっかけをくれた猫たちに感謝する。

（僕も、あの子の可愛い所を沢山語りたい……けど我慢……！）

　夏朝も内緒で猫を飼っている。
　ただ不思議な猫で、色んな意味で生徒たちに話すことはできない。もどかしさを感じつつも、猫トークはとても楽しかった。

　気づけば授業時間が終わろうとしていた。
　せめて最後はちゃんとしようと、夏朝は黒板の前に移動する。

「今日は猫さんのお話ができて楽しかったです。少しでもこの授業が役に立つと嬉しいです……本当に、ありがとうございました！」

　そう言いながらお辞儀をする。生徒たちからは拍手が送られた。

（皆も猫さんも楽しいひと時を過ごせるといいな）

　夏朝は教室を眺めて、心の中で呟いた。

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