みんなでつくろう！いろんな授業！｜リアクション

みんなでつくろう！いろんな授業！

●メイクの基本

　それは本当に偶然だった。
　城山水樹は用事があって寝子島高校の近くを歩いていたら、理事長である桜栄あずさに遭遇した。

　水樹は寝子島高校のOGで、卒業後は木天蓼大学に通っている。そのため、理事長のことも当然知っていた。
　今モデルなどの活動をしていることや最近起きたことなど、他愛のない世間話をする２人。
　すると、ふと『みんなでつくろう！　いろんな授業！』というイベントの話題が出る。どうやら、理事長がまたなにか思いついて企画したらしい。

「ねえ、あなたも先生やってみない？」
「え？」

　その誘いに水樹は戸惑った。いきなり言われても、自分が何を教えられるのか分からなかった。

「さっき言ってたわよね、コスメブランドのイメージガールだって。だったら教えられることは色々あるでしょ」

　結局拒否することもできず、先生としてイベントに参加することになった。
　授業内容は悩んだ末に、メイクについて教えることにした。

　水樹は『モデル直伝　初めてのコスメ入門』というタイトルで授業の準備をする。まだ授業開始まで時間はあるが、教室にだんだん生徒が集まって来た。予想していたけれど、生徒の大半はおしゃれに関心のありそうな女子高生ばかり。

「あー、モデルの水樹ちゃんだー」
「初めてみた」

　そんな会話がひそひそと聞こえる。他の生徒ももしかしたら水樹のことを知っているかもしれない。開始時刻が迫るにつれ、さらに生徒が増えていく。
　そうなると、だんだんと騒がしくなってくる。この光景に少し懐かしさを覚えつつ、皆に静かにするように促した。

「えっと、まず、メイクが苦手な子は？」

　すると、何人か手を挙げる生徒がいた。だからこそ、この授業を受けに来たのだろう。そこでまずメイク前のスキンケアから教える。

「メイクで何より大事なのは、肌。基本を疎かにせず、メイクの前にしっかり肌を整えてから。そうじゃないとメイクをしても意味がないし、肌荒れの原因になるわ」

　コスメブランドのイメージガールをしている水樹が言うと説得力がある。そして持ってきたメイク用品を見せながら話を続ける。
　まず化粧水でうるおいを補給し、乳液でうるおいにフタをして、ベースを整える。化粧水や乳液は肌の性質や個人の体質で相性があるので、合わないと思ったら別のものを試して自分に合うものを選ぶといい。
　そういったことは雑誌などから得ることもできるが、情報量が多すぎて、どれがいいのか分からない人も多いだろう。
　水樹の授業はそれらを活用するうえで、必要な基礎部分をコンパクトにまとめていて、とても分かりやすい。

　あとはファンデーションやアイブロウ、リップメイクなどを教える。最初はおそるおそる化粧水に手を伸ばしていた子や、俯き気味だった子も鏡を見ると嬉しそうな表情を浮かべた。
　ここで教えたことは、本当にささいなことかもしれない。それでも、来てくれた生徒たちは知識と自信を得るきっかけになった。

（話の流れで授業しちゃったけど、悪くなかったかも）

　生徒たちの表情を見ながら、水樹はそんなことを思った。

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