バトラーは願いを叶えるか｜リアクション

バトラーは願いを叶えるか

「執事？」
　白藤に声をかけられ、響タルトは目を輝かせた。
「いいね！　主従はBLの醍醐味だしね！」
　聞き慣れない言葉だが、白藤の反応は、一流の執事らしく落ち着いていた。
「ボーイズラブ……衆道でございますね。どのような展開をお望みでしょう？」
「そうだなー、僕以外のご主人様との絡みがみたいな。執事同士もありだよね～！」
「執事同士ですか」
「そうそう、新人さんとか居る？」
「ええ。お任せください」
　と、にこりと快諾した白藤が響の前に連れてきたのは、まだ幼さの残る青年だった。
「初めまして、タルトお嬢さま。三嶋と申します」
　ぎこちなくお辞儀をする青年に、響は目を細めた。
「いいねいいねー！　ねぇ白藤さん、撮影とかしていい？」
「ええ、お嬢さまのご随意に」
「話が早くて助かるね－！　じゃあまずは、生意気なご主人様との主従、やってみて！」
　という響の指示を、二人は正確に理解した。

「……お坊ちゃま。いい加減になさってください」
　怒りの限界に到達した白藤が、三嶋の手首をひねり上げる。
「貴様っ、執事の分際で……！」
「執事だからこそ、です。お坊ちゃまの生意気なお口を躾けるのは、わたくしの役目ですから」
　穏やかに微笑んでいるが、声には怒りがにじんでいる。
「ッ、やめろ！」
　不意に、三嶋の口を白藤の唇が塞いだ。丁寧な口づけのシーンに、響は笑みを深くする。
「うんうん、こういうのが見たかったんだよ！」
　白藤が響を振り向いた。
「ご満足いただけましたか？」
「もちろん！」
　撮れた写真を確認する。美形同士のキスシーンに、思わず顔がほころんだ。
「それじゃ次は、執事同士ね。そうだなぁ、見習いの三嶋くんは、ご主人様と白藤さん両方に道ならぬ思いを抱いてるの。白藤さんとご主人様が仲良くしてると複雑な思いになったり……」
「は、はいっ！　えぇっと……」
　三嶋がコホンと咳払いをする。
「旦那さまも白峰さんも、どっちも魅力的で困っちゃうな～。うーん、どっちにしよう！」
　場違いな明るい演技に、白藤が呆れたように額を押さえた。
「うーん、ちょっと違うんだよなあ……」
　響は悩みながら、自分の本棚を眺める。確かいいものがあったはずだ。
「これ参考にしてみて」
「え、あっ、はい！」
　三嶋は渡された薄い本を素直に読み始めた。だが徐々に顔が真っ赤になり、羞恥からか、覗き見するようにページをめくり始める。
「こ、これを……僕が、ですか……」
　ウブな反応を示す三嶋を尻目に、白藤はにこりと響に微笑んだ。
「ところでお嬢さま、私の配役は？」
「うん。白藤さんはご主人様に一途な設定。で、若い執事には厳しく指導してるんだけど、なんだか気になっちゃう感じ」
「かしこまりました。では」
　白藤は、本を読む三嶋の手首をきゅっと握った。
「またこんな場所で、時間を無駄にしているんですか。三嶋さん」
「し、っ、白藤さん！」
　三嶋は驚いた顔をしていたが、飲み込みは早いらしい。
「貴方が至らない様子では、大切なご主人さまの名を汚してしまいます。確かに芯はありますが、いつまでもその不器用さを容認できるほど、私は優しくありません」
「……ご、ごめんなさい」
「口先の謝罪は結構です」
　と、厳しい言葉を並べた白藤の表情が、ふっと優しくなった。
「……それに、貴方の取り柄は元気でしょう。いつまでも、悲しい顔をするものじゃありませんよ」
　白藤の指が、三嶋の顎をすっとなで上げ、自分の方を向かせる。
　二人はしばらくそのまま見つめ合っていた。
　響はパシャリとシャッターを押す。
「うん、いいよいいよ～。白藤さん、素質あるね！」
「恐れ入ります、お嬢さま」
　白藤はスッと一礼し、またにこりと微笑んで見せた。

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