猫の道しるべ｜リアクション

猫の道しるべ

　八神修は身を切るような冬の風にマフラーを巻きなおした。昨晩僅かに降った雪が残る。シャッターを切った。
　と、ふいに足をつつかれる。
「ん」
　いつの間に近づかれたのか猫達だった。
「皆集まってどうした？」
　この辺りに猫の集会所でもあるのだろうか。
　つついてきた猫を撫でてやると、他の猫に匂いを嗅がれたり、舐められたりと一通り挨拶をされた。まるで猫達の仲間になったかのような気分だ。
　と、遠くから尻尾の長い猫がかけてくる。
「ん？」
　何やら他の猫を見回し、一鳴き。すると彼らは一斉に移動を始めた。
「なんだ？」
「にゃあ」
　こちらを見上げてくる猫達。
　仲間なんだから一緒に来い、そう言われているような気がした。
「……そうだな。わかった」
　猫達の歩幅が大きくなった。
「！」
　猫達について行くと、すぐに細い路地へと入った。
「狭いところが好きなのはうちの猫達と変わらないな」
　微笑ましく思いながら追って路地へ入った修だったが。
「何……？」
　塀に空いた穴をすり抜けていくではないか。
「そう来るか」
　修は四つん這いになってその穴を覗き込む。狭いのはここだけでその先は比較的広くなっているようだ。
「くぅ、ギリギリだな」
　女子であれば余裕だろうか。完全猫サイズではないだけましだが。
　どうにか穴を抜けた修。すると猫達は路地の塀から少し高いところにある屋根へと飛び移ってゆく。
「これは……」
　これまた人間には厳しい。そう思ったものの、せっかく仲間に入れたのだ。諦めるわけにはいかないだろう。修は塀に立て掛けられていた板を踏み台に、塀の上へのぼり、さらに雨樋を利用して屋根の上へ。少し遠くに海が見えた。
　屋根の上を移動する猫達、彼らの背中を追って駆け出す。思ったよりも屋根と屋根の距離が近い。
「これなら追えるな」
　穴抜けや屋根のぼりに比べれば安いものだ。
　と、その時だった。どどんっ。という大きな音がした。前方を見ると屋根に穴が空いていて、一部の猫達の姿が消えていた。
「くっ」
　慌てて覗き込むと、廃墟らしき建物の床に生えた草のクッションの上に何匹かの猫達が転がっていた。見たところ怪我は無さそうだが。
「大丈夫か！？」
「……みゃぁぁ～」
　猫達はこちらを見上げて不安そうだ。
　穴からよく覗き込むと唯一の出入り口は大きな南京錠がかかっているようだ。抜けられるような穴もなく、このままでは閉じ込められてしまう。
「何かないか……」
　廃墟内を見回すと、家具が散乱していた。クロゼットやベッド、椅子やテーブルなど。
「よし」
　修は穴から慎重に体を滑り込ませ、体勢を低くして着地した。
「みゃあっ、みゃぁ」
　落ちてしまった猫達がすり寄ってくる。
「もう大丈夫だ。ちょっと待ってろ」
　修は穴の真下にテーブルを置き、椅子を重ねる。
「さ、一匹づつ」
　修は猫達を持ち上げて穴の外へと出していく。
「よし」
　最後の一匹を外へ出し終え、一息。最後に修も屋根へと戻った。
　すると全員が足を止めてこちらを見ていた。
「皆で待っててくれたのか」
「にゃ」
　一匹の猫が肯定するように短く鳴くと、一斉に駆け出した。
「待ってくれ」
　こうして着いて行った先は海、漁港だった。
　遠くに、こちらへ向かってくる漁船が一台。どうやら、猫達の目的はあれらしい。
「……」
　おこぼれの魚を狙っているのだろうけど。
「あれがついたら大きいのを奢るよ」
　修は猫達と視線を交わしあった。

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