猫の道しるべ｜リアクション

猫の道しるべ

　恵御納夏朝は猫の鳴き声を聞いて、足を止めた。
「ん？　なんだろ」
と、そばの茂みから飛び出してきたのは三匹の子猫だった。夏朝の足の周りをくるくると回る。種類は三毛子猫、キジトラ子猫、黒白子だ。
「わっ、どの子も可愛い」
　しゃがみ込むと、子猫達は一斉に見上げてからちょこちょこと歩き出した。民家の塀と塀の間に入って行こうとするのだが。
「ん？」
　子猫達は夏朝を振り返って、小さく鳴いている。
「ついて来いってこと？　僕に？」
　なんとなくだが、子猫達は頷いたような気がした。
「あ、待って」
　猫達を追って塀と塀の間へ飛び込むと、正面は突き当りだった。子猫達は窪みを足場にして、塀の上へと飛び乗っていく。
「え、うそ。待ってよ」
　ジャンプしても届かなさそうだ。
　乱雑に放置されたいくつかのブロック塀に猫シールを貼って軽くし積み上げて足場にした。それを踏み台に同じく塀の上へのぼる。
「お、ととと」
　猫達について、歩き始めた夏朝だったが、
「え！？　そっちへ行くの！？」
　塀の上から今度は屋根の上へ。しかし、この高さなら普通に行けそうだ。
「よっと」
　どうにかのぼって猫達と同じ屋根の上へ。
「おーい、どこに行くのー？」
そう問うたものの、子猫達は母猫のところへ向かっているのではないだろうか。
「ま、待ってよー」
　ちょこちょこと走る子猫達は中々に素早い。屋根から屋根へ、次々と進んで行く。と、その時。
「あれ！？」
　とある民家の屋根から下を見やると、塀に囲まれた中庭のような場所で黒猫がみゃあみゃあと泣いていた。
　見ると、三匹の子猫がじっと夏朝を見ていた。
「もしかして、僕に助けてほしいの？」
　見たところ、四方を高い塀に囲まれているため小さな子猫に脱出は不可能だろう。
「まかせて！」
　夏朝は屋根から高めの塀に飛び乗り、塀の凸凹を利用して慎重に庭中へ着地した。
「みゃあみゃあっ」
　助けに来たとわかっているのか、黒猫が駆け寄ってきた。
「怖かったよね。よしよし」
　しゃがんで頭を撫でるとごろごろと喉をならす。
「じゃあ、上へもどろっか。大丈夫ぼくなら登れるから」
　そう言って抱き上げようとした時、
「おいっ、誰かいるのか！？」
　奥の鉄の扉が開いて、中年の男性が入ってきた。慌てて木の陰へ。
「ここはウチの敷地だぞ！　……気のせいか？」
　男性はきょろきょろと辺りを見回した。と、その時。
「あ」
　夏朝の腕の中から黒猫が飛び出してしまったのだ。
「ち、猫か。しっしっ。たく」
　男性はもう一度辺りを見回すと、扉へ戻って行った。
「は、早く、もどろ」
　屋根の上へ戻ると、四匹の猫達の案内が始まった。
　着いて行った先には林に囲まれた広場が。
　どうやら猫達の秘密のたまり場のようだ。四匹の子猫達はというと、高台にいた縞猫にごろごろと甘えていた。
「わ、お母さん猫かな」
　母猫らしき縞猫は夏朝に向かって、にゃあっとないた。まるでお礼を言われているかのよう。
「よかった」
　可愛い子猫さん達の道しるべここの事は皆には内緒。
　暫く君達と過ごしてもいい？

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