凍える夜に闇鍋を｜リアクション

凍える夜に闇鍋を

「はぁ、寒いなぁ……」

　白い息を吐いて碧南はそんな風に呟く。すっかり雪景色となったグラウンドは厚着をしていても碧南には辛いようだ。

「闇鍋かぁ。何が当たるかでだいぶ変わるけど……良いのが当たると良いなぁ」

　すると、ののこが大声で闇鍋の完成を知らせてきたので、早速暖かい物を食べて暖を取る為に大鍋の方へと向かって行く碧南。

「うーん……。汁は、普通そう？」

　即席の器に入ったスープを眺めた上での感想がこれだ。匂いを嗅いでみたところ変な匂いではなく恐らくは大丈夫だと感じて箸を付けてみると、掴み上げたのはしっかりと火の通った鶏肉のようだ。

「鶏肉ならそんなに変な味はしないかな？」

　見たところおかしな点はない。しかし、もしかしたら中身が変な可能性はある。そう思っていると、悲鳴に近い呻き声が耳に届いた。

「だ、大丈夫かな……？」

　思い切って口に入れてみると中に広がるのはジューシーな鶏肉の味だ。それにスパイスの風味もするところからスパイスがかかっていたのかもしれないと碧南は思った。

「凄い。この鶏肉、とってもジューシー」

　スープの方は少し味の濃いこってり系だが、それがまたこの鶏肉と合っている。

「でも、これならご飯が欲しいかも」

　こってり系スープとスパイスの効いた鶏肉ならば確かに白ご飯との組み合わせは最高だろう。
　美味しい物を食べれて気分がよくなった碧南は、更に気分を良くするべくご飯を探しに行く事にしたようだ。自分の持ってきた具材はどうなっただろうかと考えながら。
　碧南はこの後、めちゃくちゃご飯と鍋を食べた。

（へぇ。隣の背の高い子は結構美味しそうだねぇ）

　その横で同じように即席の器を持って、面白そうに周囲を眺めているのはタルトだ。
　自分の持っている器の中身も気になるが、それと同じくらいに他人の中身も気になるようだ。

（あっ。あれはもしかして……）

　少し離れたところで奇妙な顔をしている男子学生。彼が箸で摘まんでいる物にタルトは見覚えがあった。

（ぷくくっ。あれは僕が持ってきたパチパチお菓子だっ）

　どうするのかなと思ったら、覚悟を決めたのか口の中へと放り込み何とも言えない表情を曝す。

（うん、このスープの味とパチパチとする甘い味は流石に合わないだろうねぇ）

　他人の不幸は蜜の味と言わんばかりにこっそり笑うタルト。

「さて、私のは……と、これは……なかなかチャレンジャーだねぇ」

　しかし、こっそりと笑った天罰だろうか。タルトの器の中身も中々に強烈であった。

「これ、サンマの蒲焼？　多分、缶詰のやつかな？」

　当然ながらタルトが知る事はないが、実は先程まで横にいた碧南が持ってきた具材だ。

「単体なら良いんだろうけど、この鍋の味には合わないねぇ」

　しかし、闇鍋にやってきたからにはこういう合わない物に会う覚悟は済んでいる。そのまま食べる――のかと思えば、傍にいた男子学生二人に話かけ始めた。

「おっ、君のそれ中々美味しそうだねぇ」
「ん、お、おぉ、そうだろ？」

　突然話しかけられて戸惑いながらも返事をする男子学生。しかし、もう一人は気付かなかった。タルトが話しかけてきて、彼女に気を取られている間にサンマの蒲焼が入っている事に。

（ごめんねー）

　心の中で詫びながら舌をペロを出すタルト。あまり反省しているようには見えないのは気のせいだろうか。

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