氷像兵団の襲来｜リアクション

氷像兵団の襲来

●頭脳戦

　水守流は目の前で繰り広げられる光景を呆然と眺めていた。
　凍りつつある建物や道路。そして３メートルほどの氷の巨兵。それが何体も歩き回って街を破壊している。彼は頭を抱えた。

「俺ってば肉体労働系は苦手なんだっつーの！　あんなでかくて硬そうなやつを叩いて砕くとか俺には無理だぜー。ここは頭を使って何とかするしかねぇな」

　流は身を潜めながら、なにか対抗する手段がないか思案する。

「氷といったら熱に弱いのが定番だが、あいにく火炎放射器なんてあるわけねーしな……っつかあったら怖い……」

　巨兵の足音が近づいては遠ざかる。のんびりしている時間はない。

「そうだな……効くかどうかは賭けだけど、アレを使うか」

　流は１つの可能性を信じて行動を開始した。巨兵に見つからないように物陰に隠れながら寝子島高校の体育倉庫を目指す。

（多分あそこならアレがあるはずだ……！）

　どうにか巨兵に見つからずに校舎の敷地に入ることができた。しかし一部の出入口が凍って使えなくなっている。不安に思いながら体育倉庫までやってきた。少し凍っているが、ドアは開けられそうだ。
　どうにか中に入ると、目的のものを探す。

「ここならあると思うんだが……お、あった！」

　流が見つけたのは、グラウンドに白い線をひく時に使う道具。車輪がついていて、底の部分を開けると中の粉が地面に落ちる。

「中身はどのくらいあるか……よし、十分だ。石灰ゲット！」

　石灰は水と反応すると発熱する特徴がある。
　この性質を利用して氷の巨兵と戦おうという算段だ。しかし少量では効果が薄いかもしれない。だから流は十分な量を手に入れるためにここへやってきた。

「それなりの量をよぉ、ぶっかけてから濡らしてやれば溶かすまでいかなくても結構もろくなるんじゃあねぇか？　それこそ……非力な俺でも砕けるくらいにな！」

　石灰のほかに手ごろな金づちを鞄にしまう。おそらくイベントのテント設営などで使うものだろう。なにか役に立つかもしれない。

「あとは水だな。学校の水道が使えるといいんだが……」

　そのときだった。
　ここに来るまでに何度も聞いた重い足音が近づいている。

「おいおいマジかよ……のんびりしてらんねえな」

　流はそれらを持って体育倉庫を後にする。そしてすぐに水場へと向かう。だがそこで、巨兵と遭遇してしまった。

「げっ」

　隠れようかと一瞬考えたが、完全に目が合った。今更隠れても無意味だろう。

「やるしかねぇ……！　くらえ！　『石灰スプラーッシュ』！」

　白い粉を巨兵目掛けて振りまく。まるで霧が発生したように視界が悪くなる。

（このタイミングしかない……！　水ちゃんと出てくれよ！）

　蛇口に繋がったホースを握ると、祈るように蛇口をひねった。それと同時に巨兵が流に向かって突進してくる。そして剣を振りかぶったそのとき、ホースから水が勢いよく飛び出した。その水は巨兵の体にまんべんなく掛かり、大量の石灰と水が反応して発熱する。ダメージを与えているようで、うめき声のようなものが聞こえる。流の作戦成功だ。

「溶けろ！　溶けて砕けやがれ！　このトンチキが！」

　巨兵の動きが取れなくなったのを見ると、すぐに近づいて金づちを振り下ろす。
　その感触は想像を超えるほど脆かった。倒せると確信した流は巨兵が動かなくなるまで攻め続けた。

「はぁ……はぁ……」

　そこには、かつて氷の巨兵だったものが横たわっていた。

「ふぅー、こういった頭脳使ったバトル展開は燃えるよな！」

　うまくいくかは賭けだったが、見事勝利を収めた。

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