氷像兵団の襲来｜リアクション

氷像兵団の襲来

●寒さを乗り越えて

　ティオレ・ユリウェイスは寝子島の光景を前にため息を吐いた。

「ネコジマへ来るたびに、運気が下がる思いを何度もしてきたが、今回のはさすがに反則だ」

　異常な寒さだけでなく、バカでかい氷の巨兵たちやその指揮を執る隊長が暴れまわっている。

「まいったね、見てるだけでますます寒くなりそうだ」

　やれやれと思いつつ、スレッジハンマーを手に取った。
　威力は高いかもしれないが、女が振り回す武器としてはいささか重い気もする。しかし盗賊稼業だとこれくらいの重いものを持ち運びする機会が頻繁にあるので、彼女にとってそれほど苦にはならない。

「さて……」

　ティオレはハンマーを肩にかけて周囲をうかがう。
　見える範囲に巨兵が１体確認できた。敵に気づかれないように背後へと回り込むと、物陰に隠れて観察する。

（形は人間とほぼ同じ、そして二足歩行ということは足の関節部分は弱点のはず）

　タイミングを見計らって飛び出すと、足の膝の側を狙ってハンマーを振り回す。文字通り氷を砕くような音が響くと、巨兵はバランスを崩した。
　しかしそれでも剣をティオレめがけて振り下ろす。彼女はそれを避けて、さらに攻撃を加える。完全に動かなくなるまでその攻撃は続いた。
　
　そうして何度か巨兵を倒したが、いつまで経っても終わる気配が無い。
　もう何体倒したのか分からないほどだ。ティオレはハンマーを下ろすと小休止を挟む。

「……埒が明かない。こいつらの親玉を倒しに行こう」

　隊長と呼ばれている存在が九夜山にいることは分かっている。それを倒せば、この集団もいなくなるだろう。ティオレはそう考えて、九夜山へ向かった。
　九夜山もこの寒さで木々が凍りつつあった。早く手を打たないと時間の問題だろう。しばらく茂みを進んでいたが、頂上に向かうにつれて、探していた相手を見つけた。

（あれが隊長……）

　隊長は先ほどまで戦っていた巨兵より、さらに大きかった。盾を持たず、両手に剣を持っている。ティオレは隠れて様子をうかがっていたが、隊長が気づいて、すぐに飛び込んできた。咄嗟にハンマーを構え、戦いに臨む。

　悠長にしている暇はなさそうだ。
　お互いの攻撃が空を切るたび、木々が揺れる。隊長の攻撃はさらに大きな破壊をもたらした。

（さすがに隊長だけあってなかなか一筋縄ではいかないか）

　巨兵のように隙を突こうとしているが、なかなか近づけない。

（かといって、このままちょこまか逃げ回っていても埒が明かないし、そろそろ体力も切れかけてる）

　隊長と交戦するうち、わかってきたことがある。
　両手の剣はたしかに威力が大きいが、その分隙も生まれやすい。

（攻めるなら、そこしかないか……！）

　なんとか気力を振り絞って、隊長の大ぶりな攻撃をかわし、弱点と思しき所へスレッジハンマーを叩き込む。
　隊長がよろめいたが、まだ足りない。ティオレは慎重に見極め、大胆に飛び込んで何度も何度も攻撃した。

　そのなかで、隊長のバランスがついに崩れた。このチャンスを逃すわけにはいかない。ティオレは一気に距離を詰めて、渾身の一撃を与える。隊長の体は激しい音とともに砕け散った。

「……終わったわね」

　静かになった九夜山で、彼女はそう呟いた。

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