風邪引きました｜リアクション

風邪引きました

白石妙子はエプロンの紐を結びながら、咳ばらいをした。朝起きた時から喉の痛みがある。眩暈を感じ、額を押さえた。妙に身体が熱いと思った。どうやら熱があるらしい。
「はあ。完全に風邪ね」
　認めたくはないが、このダルさは間違いない。
　朝食の用意を終えてから息子を起こし、送り出すと力が抜けてイスに座り込んだ。
「熱……計ると体調が悪くなるのよね」
　数字で見せられてしまうと、どうしても意識してしまうものだ。
「多分、微熱よね」
　三十七度前後だろうと自分に思い込ませ、すっと立ち上がった。
「こんな時間！　ごみ出してこなきゃ」
　家中のゴミをまとめて袋に詰めて口を縛る。
「うっ」
　嫌な感じの悪寒がした。ゴミ出しが終わったら少し休む時間があるだろうか。
　ゴミステーションへ向かい、無事出し終えたところで近所の人に声をかけられた。
「大変ねぇ、息子さん元気？」
「ええ、元気過ぎるくらいで」
「ところで聞いた？　あそこの家の奥さんが」
　直感的に思う。これは長くなる。
　予想は的中し、解放されたのはなんと一時間後だった。どうにか帰宅した妙子はソファに座り込んだ。
「疲れたわ……」
　体のだるさが増している。熱も上がってきているような。
「ううん。やることやってから横になりましょ」
　せめて洗濯はしなければ。かごに山盛りの衣類を洗濯機に入れて、スイッチを入押す。
「ふぅ」
　掃除は多めに見てもらうとして、少し休んだ方が良さそうだ。
　エプロンを外して寝室へ入った妙子だったが、
「あ……」
　今日は良い天気で風もない。先伸ばしにしてきたが、布団を干すには絶好の日和ではないだろうか。
「今手が空いてるし、思いついた時にやった方が」
　こうして、洗濯機を回している間に家族全員の布団を干し、宅配業者の相手をしながら、時間は流れて行き、
「……げ、限界」
　買い物に行く気力がない。ソファに倒れ込んだ。
「天井が歪んで見えるわ」
　さすがに無理をし過ぎたかも知れない。不意にスマホの着信音が鳴った。
「あ……」
　夫からの着信。
　意識せず電話に出る。
「あなた、……ええ、そう。声が変？　あ、実は。ごめんなさい、熱があるの。風邪ひいたみたい。……ありがとう。休むわ」
　掃除は後回しにし、横になることにした。

　しばらくして。
　玄関のチャイムが鳴った。
　出てみると夫が笑顔で立っていた。
「ただいま」
「あなた……」
　安堵し過ぎて体の力が抜けた。

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