廃墟は暗闇にささやく｜リアクション

廃墟は暗闇にささやく

タルトは暗い廊下を島岡先生と共に歩いていた。島岡先生はタルトの腕に思いっきり抱きついている。柔らかい感触が心地いい。
「あああ、あの、もう何もなさそうですし帰りませんか？」
「まだ十分も経ってないって。大丈夫大丈夫」
　なんとも不気味な雰囲気にタルトの足取りは軽い。と、その時。
「ひっ」
「ん？」
「あ、あれ！　あれぇ」
　島岡先生が指を指した先にあったのは西洋の甲冑だった。劣化しているらしく、ところどころ崩れ落ちている。
「おっ」
　それの目が青白く光っていたのだ。首も少しずつ動いているような。
「すごーいっ、人魂でも入ってるのかな！？」
「響さんっ」
　島岡先生に手を引かれた。
「わっ、先生！？」
　引っ張られて走り出す。
「襲われますよっ」
　汗だらだら、顔面蒼白だ。タルトは走りながら後ろを振り返ってみる。
「ほんとだ、追いかけてくる」
「ふえ！？」
　島岡先生の間抜けな声。後ろから追いかけてくるのは青白い光だった。ふわふわと漂うように、しかしその速度は信じられないほど早い。
「いやああぁっ」
「あはははっ」
　廊下を走り抜け、階段を二階へ。
「！」
　そこで二人は足を止めた。向こうから歩いてくるのはところどころ崩れ落ちている甲冑である。先ほど目を光らせていたものと同じかはわからないが、カシャカシャと音をたてながら歩み寄ってくる。手には長剣を持っていた。
「思いっきり攻撃してきそうだよね」
　ふりかえれば人魂が機会を伺うようにふわふわと浮かんでいた。挟み撃ちにされてしまったらしい。
　と、甲冑が剣を振り上げた。重そうな足音をたてながら迫ってくる。
「いやああっ」
　振り下ろされた剣、それを止めたのは、ナイフだった。握っているのはサキリである。
「大丈夫か？」
「う、うん。ありがとう」
　サキリは頷いて、ろっこんを発動させた。斬空赤刃、ナイフが赤く輝き、甲冑の長剣が粉々に破壊されたのだった。そして、甲冑も反動で吹き飛んだのだが、
「え？」
　島岡先生がぽかんとする。
　崩れ落ちた甲冑から出てきたのは金髪碧眼の裸の美少年だったのだ。
「彼が正体のようだね。それより逃げよう」
　走り出すサキリ、島岡先生もふらふらになりながら後を追う。タルトも続こうとして気づいた。追ってきていた人魂が美少年の前に下り立ち、その姿を青年の姿へと変えたのだ。
「え！？」
　見つめ合う二人。最後は手を組んで、その場から消え去った。
「ご、ごちそうさまっ」
　タルトはそう叫んで、改めて二人の後を追った。

　サキリは二階端の廊下で足を止めた。
「……何か妙な気配がするね」
「はぁはぁはぁ、そう、ですか？」
「ああ、なんで、う！？」
　島岡先生へ視線を向けたサキリが顔を引きつらせる。
　島岡先生の肩にはドレス姿の小さな幼女がしがみついていたのだ。
「な、何か？」
　と、後からタルトも追い付いてきた。
「はぁ、もう大丈夫そうだよ。歳の差カップルは結ばれて成仏したからね。……あれ？」
　サキリと同じように島岡先生を見やる。彼女の肩には半透明の幼女が。
「え、え？　なんですか二人共」
「うんうん、先生ってやっぱり集めちゃう人なんだよね」
「集めるってなんですか……？」
　そんなやり取りを始める二人に対し、サキリは殺気にはっとした。
「その部屋へ入っててくれ」
　近くのドアを開けて、タルト達の背中を押す。
　次の瞬間、周辺に飾ってあった壺や置物がサキリめがけて飛んできた。
「ポルターガイスト、か」
　ナイフで弾き、さらにろっこんを発動させる。
　正面に飛んできた石膏像は赤光化させ鉄板をブチ抜く威力を込めて投げた。
　サキリを囲んでいたそれらは跡形もなく粉々になったのだった。
　そんな様子を見ていた二つの瞳と目が合う。
　窓の外に女の生首が浮かんでいたのだった。

このページにイラストを設定する